クライアントが期待する、広告の費用対効果の評価は可能だろうか?
それに対して、広告会社の対抗手段はあるのか
ある程度の費用をかけ、テレビなどマスメディア広告を打てば、商品やキャンペーンの認知が上がることは間違いない。しかし、限られた予算のなかで、メディアを選んで使うのか、あるいは販促につぎ込むのか、それとも思い切って価格引下げで売上を伸ばすのか。企業側がいつも悩む問題である。
15年ほど前になるが、記者は光学機メーカーのO社を担当していた。
当時の宣伝部長がやはり、この「広告効果」について疑問を持ち、費用対効果を測る方法がないか議論が始まった。
そこで議論の末、クライアントと広告会社の間で新しい試みをやってみようということになった。目標設定した数値以上の効果が出れば、通常の広告費にプラスαのボーナスを払い、目標以下であれば広告費を削る、というユニークな取り組みであった。
しかし問題は、「目標数値を何にするか」で、さらに議論が続いた。
売上を目標数値にできるのか?競合商品も多く、価格や販促、販売店の取り組みで売上は大きく影響する。売上は、広告の出稿量だけで伸びるものではない。
では、商品の知名度を数値目標にすれば、広告出稿量によって直接影響されるため、目標数値に相応しいのではないか?しかし、いろいろ過去の調査データを調べてみると、例えば同じテレビ広告の出稿量でも、広告表現が面白いか、面白くないかによって記憶される商品名のレベルは非常に差が出ることが分った。
そこでたどり着いたのが、テレビスポットのGRP(1本ずつのテレビCMの視聴率の合計)について、広告会社が事前に提出した予測数値と、実際にオンエアされた広告のGRP(業界ではアクチュアルと言う)を比較して、目標達成度を測ろうということになった。
その時はありがたいことに、アクチュアルの視聴率の方が高くなり、広告会社の側としては負担をせずに済んだが、大変な作業であった。
なお、このO社の宣伝部長は、その後出世されて現在は同社の代表取締役を務められている。
たぶん最近でも、広告効果測定については議論がなされているのだろうが、広告会社にできることは、やはり「その広告で売れた!」というサクセスストーリーをできるだけ連発して、クライアントに夢と期待を持たせることが一番の対抗手段であろう。
かつて九州では、「うまかっちゃん」や「うまか棒」などご当地商品企画に基づいた広告がヒットして、広告効果が話題になったことがある。
広告会社が商品企画からクライアントの作業に携わり、成功した実例である。
広告に携わった者なら、広告でヒットしやすい商品名や商品企画というものを体感している。広告会社側ができることは、クライアントの内側に入って商品開発の段階から参画し、消費者にアピールしやすいネーミングや商品企画を作り上げ、クライアントの信頼を得ることが一番の道筋であることは変わらないであろう。
【松尾 潤二】
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら