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山水建設への遺書(37)  社長の仕事―その2/野口孫子 氏
経済小説
2009年10月27日 08:00

社長の仕事2

 社長というのは、もちろん偉いものだ。それが会長CEOになると、さらに偉くなる。他の役員や幹部社員はひれ伏すようになるし、秘書までもが会長の好きなことばかりを優先してスケジュールに組み込み、嫌いなことは後回しにしてくれる。好きなことだけさせてもらい、お世辞だけ言われ、凋落の兆候が数年前から表れていることにすら気付かなかった。部下の口車に乗って、ただ踊らされているだけだったのではなかっただろうか。
 坂本会長CEOは、「裸の王様」状態だったのではないだろうか。

 本来やるべきことを後回しにして、好きなことしかしてなかったツケはとうとう廻ってきたのである。坂本が前会長中井の追い落としに躍起になり、辞任へと追いやった頃、山水建設は業界2位へと転落した。凋落の傾向は、これ以上なくはっきりと出ていたのだ。何よりも、それを認識すべきだったのだ。

 今の山水建設の凋落ぶりは、すべて社長であった坂本の責任なのだ。ここまで会社を凋落へ向かわせた責任は、坂本以外の誰が負うべきものでもない。
 今、坂本会長CEOのやるべきことは、改革・合理化を推進するという名目で、部下や取引先に痛みを押し付けることではない。自らが謝り、恥をかき、嫌なことでも率先して真っ先にやることなのだ。自らが嫌なことを斎藤社長に押し付けているようでは、まだ反省の色は見られないし、当然会社全体、組織としての動きもない。
 最高権力者がためらいを捨て、自ら泥をかぶり、先頭に立つ勇気を見せれば、組織は動き出すものである。創業社長山田はそのようにしてきたはずである。坂本は一体、山田の下で何を学んだのであろうか。

 自らが先頭に立つ勇気を与えてくれるのは、高い理念や志の他はない。
 幸い、山水建設では、「エコ」という最先端の新たな企業理念を打ち出している。輝かしい企業理念を持っていれば、自分が突撃するというエネルギーが湧きあがってくるはずだ。
 自らの胸の内に高い理念が掲げられていれば、「そんなことに会長が出なくても」などとおべっかを言うゴマすりの部下は、叱り飛ばして当然なのである。そのような高い理念を持ったトップ(あるいは、更生・変身した坂本)の出現を期待したい。

~つづく~

(これはフィクションであり、事実に基づいたものではありません)


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