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山水建設への遺書(38)  社長の仕事―その3/野口孫子 氏
経済小説
2009年10月28日 08:00

社長の仕事3

 社長や会長の命令・号令が、現場に下りてくる。現場は何とかその命令に、社長や会長の意向に従おうと努力する。そして無理をしてしまう。
 良い意味での、社員の積極的な参画による無理であれば問題はないのだが、現場の幹部は部下に無理やりの背伸びをさせてしまうことがある。上が前年度10%アップと命令すれば、地域や事業内容等でそれぞれ状況が違うのに、力のない者まで無理をしてしまう。無理が嵩じて思いがけない事故を起こし、現場は一大事となり、自分の管理責任にされることを恐れた上司は隠ぺい工作に走る。そしてそれがバレれば、担当に責任転嫁してしまう。
 正義感のある担当は不条理を訴えるが、現場でふたをされる。社長や会長まで、事実が上がることはない。このような経緯によって、トップの命令が内部告発を誘発してしまうのである。

 かたちだけを求める命令が、中身のない空虚な数字として上がってくることもあることを、トップは認識しておかねばならない。
 不良資産に関しても、「土地を買え」と命令したばかりに能力を超えた土地を仕入れ、企画も低レベルで結局売り残す羽目になり、時代も変わってあっと言う間に不良資産化してしまう。
 現場での契約数字の厳しい追求により、経営を狂わせるような架空の契約を計上したり、その場をしのぐためにそれをやる担当や見て見ぬふりをする幹部、弱い人間がいたりすることを、忘れてはならない。自らが発した罪作りな命令は、会社に害をもたらすことを肝に銘じなければならない。
 このようなことはあまりにも不幸なことだ。社長や会長は、自らの責任の重さを常に認識せねばならない。

~つづく~

(これはフィクションであり、事実に基づいたものではありません)


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