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山水建設への遺書(39)  社長の仕事―その4/野口孫子 氏
経済小説
2009年10月29日 08:00

社長の仕事4

 会長CEO、社長COOには、内部告発の出ない、内部告発の必要のない会社を作ることが求められている。ことあるごとに両人は、「我が社の伝統的社風は、『風通しの良さ』、『苦労を上司と部下、先輩と後輩と分かち合い、感動を共有できること』、『自由闊達』」と言っているが、かつての創業社長の山田の時代にはそのような企業風土があったのだ。
 それをなくしたのは坂本だという認識が、まるでない。あえて「自由闊達な企業風土を取り戻そう」と訴えねばならないほど、社内は盛り上がりに欠けているのである。
 いかに美辞麗句を並び立てたところで、魂の入っていない言葉、行動に裏付けられていない言葉はむなしく響くだけである。
 上司は坂本の恐怖に裏付けされた号令に従おうと、自分の部下に坂本がしているのと同様に、人事異動や降格などの恐怖を与え、出来もしない数字を要求し続け、心の通い合った職場の絆もなくなってしまっている。このような社風にしてしまったのは坂本であり、坂本に上手に取りいっている取り巻きの連中である。

 自由闊達な社風というのは、このような不況下の危機のときは、組織、チームを守ろうと皆で知恵を出し合い、自然発生的に懸命に努力し合うような状態をいうのである。それが今や、皆自分を守るのが精一杯なのである。
 山水建設の企業理念「人を大切にすること」を、坂本がないがしろにしてきたツケが、この不況で弱点としてはっきり表れてきたのである。
 会長CEO、社長COOは高い志を持ち、倫理観、世界観、歴史観などの高い教養で磨かれた理想を追求できる人物でなくてはならない。これに裏打ちされれば、経営計画に魂が吹き込まれ、エネルギーとなるのである。決して自分の名誉欲、金銭欲、であったりしてはならないのだ。高い志を持った社長のもとでは企業理念は浸透し、目標も達成されるのである。創業社長の山田がそれであった。
 坂本も、斎藤も、社員に「原点に帰れ」という前に、自分自身がまず原点に帰り、トップ経営者としての倫理観、高い志を持ち直して欲しいものである。

~つづく~

(これはフィクションであり、事実に基づいたものではありません)


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