<不正取引の常連>
BNPパリバ証券の1回目の行政処分は2000年6月。ほとんど価値のない有価証券を持っていた複数の法人客に対し、損失を先送りできることを約束して取引を勧誘した。3日間の株取引の業務停止命令。
2回目は02年12月。三菱電機株のEB債(デリバティブ商品、発行額13億8,263万円)の償還条件決定日である01年5月17日に、株価が現金償還に変わる価格(719円以上)を付けないよう、大引け直前に718円の指し値で90万株の売り注文を出した。その結果、株価は718円で終えた。1年半後、EB債の償還に絡む作為的相場形成についての法令違反で、株式売買の10営業日の業務停止命令を受けた。
3回目は08年11月。不動産会社アーバンコーポレイションの資金調達を引き受けた際に、重要な契約情報を公表しないようにアーバンに働きかけたのは投資家への裏切りで、経営管理体制に「重大な欠陥」があるとして業務改善命令を出した。
<インサイダー取引疑惑は封印>
しかし、市場関係者からは情報隠しだけを業務改善命令の理由としたことに、大甘の処分として非難の声が起こった。パリバの不法行為の核心は、インサイダー取引疑惑にあるとみなされていたからだ。
金融機関からの新規借り入れや借り換えが困難になったアーバンは08年6月、パリバを引受先に総額300億円のCB(転換社債)を発行する計画を発表。しかし、実際にアーバンが調達した資金は300億円ではなかった。
アーバン株が下がると、調達額が減るスワップ契約を締結していた。だが、これは公表しなかった。スワップ契約にもとづき、300億円はすぐにパリバに払い戻され、パリバはCBを株式に転換したうえで、株価変動に応じて分割払いされる仕組み。パリバは支払額を減らすためにアーバン株を空売し、結果、アーバン株が下落。アーバンは約91億円しか調達できず、資金繰りに行き詰まって8月13日に民事再生法を申請する要因となった。
このスワップ契約の存在は、8月の破綻時にアーバンが初めて公表した。アーバンが300億円を調達済みと考えていた投資家を欺く行為として批判が集まった。しかも、パリバが同社しか知り得ないスワップ取引の存在を知りながらアーバン株を取引していたことは、インサイダー取引ではないかとの疑惑を招いたのだ。パリバはスワップ組み合わせ取引で11億7976万円の収益をあげていた。300億円の見せ金で11億円を稼ぐ「錬金術」だ。
非難の高まりを受け、09年3月、証券等取引等監視委員会が検査に着手。金融庁から報告命令を受けた際、自社に都合のいいように、事実と異なる報告をしていたことが判明し、ソフトバンク株の不正取引と合わせて今回の行政処分となった。
パリバを巡る問題が昨夏に表面化してから、今回の処分まで1年以上かかっている。しかも、事件の核心であるインサイダー取引疑惑は不問に付した。
金融庁は外銀に甘い。だから、外銀に好き放題にやられてしまう。
【日下 淳】
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