日本航空(JAL)という巨大企業の生殺与奪権を握るのが、産業再生機構のOBたちである。前原誠司・国土交通相直属の専門家チーム「JAL再生タスクフォース」の面々。JALに派遣され資産査定を行ない、執行役員に就いて実権を握るのは確実な情勢だ。彼らは何様なのか。
産業再生機構のOBたち
「JAL再生タスクフォース」の5人のメンバーのうち4人が産業再生機構の出身で、チームリーダーの高木新二郎氏は再生機構の再生委員長。冨山和彦氏は専務、田作朋雄氏は取締役、大西正一郎氏はマネージング・ディレクターを務めた。高木氏は冨山氏が代表の「経営共創基盤」の経営諮問委員会委員、大西正一郎氏の「フロンティア・マネジメント」の特別顧問である。
唯一の例外が奥総一郎氏。前原国交相と奥氏は京都大学法学部の同期で、国際政治学者高坂正尭教授(故人)の門下生という仲だ。前原国交相が、JAL再建について「腹案がある」と言ったのは奥氏のアイデア。これに冨山氏がペンを入れたものだといわれている。
彼らは「事業再生の専門家集団」という触れ込みだが、これは正確ではない。事業再生は、再生機構の本来の仕事ではなかったからだ。
企業を解体して転売
産業再生機構は2003年の小泉純一郎政権時代に、金融機関の不良債権の抜本処理を打ち出した竹中平蔵金融相(当時)の肝煎りで発足。小泉・竹中構造改革の実行部隊である。
当時、竹中金融相が考えていたのは、メガバンクは4つもいらないということ。東京三菱と三井住友は残し、みずほとUFJは米国の銀行に売り払うというもの。不良債権を半減させるノルマを課して、メガバンクを追い込んでいった。銀行の不良債権を減らすために、銀行から切り離す不良債権の受け皿にしたのが再生機構だ。
再生機構は発足したものの開店休業。これでは再生機構の存在意義はない。
そこで標的になったのが金融庁に楯突いたUFJだった。大口融資先を再生機構送りに追い込むために、UFJを厳格検査で締め上げた。ダイエー、大京、ミサワホームといった著名な企業を再生機構に送り込んだ。こうして再生機構は大型案件を手がけることができた。
再生機構は公的資金を活用し、対象企業に自ら出資して経営陣を送り込み、不採算事業の切り捨てやリストラなどの荒療治を施して売却した。
再生機構のメンバーは、外資系ファンドでM&A(合併・買収)などの金融技術を磨いてきたプロ。外資系ファンドが得意技としていたのが「企業再生ビジネス」である。破綻した企業を二束三文で買収して、転売や株式上場でリターンを得る商売だ。
再生機構のメンバーは、外資系ファンドの手法をそっくり取り入れた。転売することに腕を振るった。事業再生は二の次。彼らがやったことは、国の力で、銀行が保有している債権を安く買い叩き、対象企業を解体して売り払っただけというのが実情だった。「解体屋」と陰口を叩かれた。事業再生のプロではなかった。
【日下 淳】
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