PFI病院が早くも挫折した。近江八幡市立総合医療センター(滋賀県近江八幡市)はPFI契約を解除、高知医療センター(高知市)はPFI契約解除を決めた。医療分野の規制緩和を主導し、先頭に立ってPFI病院に参入した宮内義彦氏が率いるオリックスは、真っ先にPFI病院から逃げ出した。PFI病院は空中分解。にもかかわらず、PFI病院を推進しようとする自治体があるのは不思議というほかはない。なぜ、PFI病院は頓挫したのか。
<失敗に終わったPFI病院第1号>
2005年3月、高知県立中央病院と高知市立市民病院が統合した高知医療センターが開院した。経営を民間企業に委託するPFI方式を採用した全国初の公立病院である。PFIとは、プライベート(民間)、ファイナンス(資金)、イニシアティブ(主導)の略。民間資金で病院を建設し、病院経営に民間のノウハウを活用して公共施設の建設や運営をする行政財政改革の手法をいう。
PFI方式第1号の高知医療センターは、高知県と高知市でつくる「高知県・高知市病院企業団」(以下、病院企業団と略)が運営主体になり、オリックスを代表とする特定目的会社(SPC)である「高知医療ピーエフアイ株式会社」(高知PFI)が医療行為以外のすべての業務を一括受注した。契約は30年間で2,131億円。自治体運営では難しい効率性を追求するため、長期契約を結んだと説明された。
小泉内閣の規制改革・民間開放推進会議議長を務め、官業の民間開放を推進したオリックスの宮内義彦会長は、「どんな分野でも、民間がやれば赤字にならない」と大見得を切った。宮内氏にとって、高知医療センターは医療分野の民間開放のモデル病院であった。
それから4年。PFI病院は頓挫。高知PFIからPFI契約を解除したいとの提案を受けて、病院企業団は今年6月、PFI契約を解除し直営に移行することを決めた。
PFI病院はなぜ、うまくいかなかったのか。明らかになったのは、経営の効率化をもたらすはずのPFI方式そのものが、経営の足かせになったという皮肉である。
<問題があったPFI方式の構造>
高知医療センターは05年の開院以来赤字経営が続き、09年3月期は21億1,200万円の赤字。累積赤字は79億5,800万円に達した。これに対して、事業を請け負ったSPCの高知PFIは黒字経営を続け、09年3月期は1億5,100万円の当期利益を計上した。
病院は累積赤字を膨らませていたのに対し、SPCは儲かっていた。その理由ははっきりしている。不採算事業は病院に、採算事業はSPCに分けているからである。
不採算でも公共に必要な部門を抱えるため、赤字になりやすいのが公立病院だ。産婦人科や小児科などの診療科目は『儲からないので廃止する』とはいかないためだ。公立病院の医療本体は、どうしても赤字になりがちだ。そのため、給食や検査、清掃、薬品調達などサービス部門で少しでも黒字にし、赤字幅を圧縮しようとするのが通常の運営方法である。
ところが高知医療センターは、そうした利益を生み出せる部門を高知PFIに丸投げした。高知PFIは、SPCの構成企業に丸投げする。さらに、構成企業は下請けに丸投げする。実際の業務は下請け、孫請けが行なうという構造となっている。現場の労働者は低賃金だが、各段階でマージンをピンハネするので、構成企業が損を出すことはない。
儲からない医療部門を病院が担当し、儲かる医療外部門はSPCが受け持つため、高知医療センターが大赤字になり、SPCである高知PFIに利益が出るのは当然。これはPFI方式の構造に基づくものなのだ。
契約時にオリックス側が提示したのが、材料費の削減。材料費とは薬品と、包帯や注射器などの医療材料の費用を指す。医療収入に対する材料費の割合の目標は23.4%。県と市の病院で分かれている調達をまとめ、単年度予算では不可能な長期契約を結べば、調達コストを20%削減できるとして、23.4%の数字を提示した。実際は30%以上で推移し、開院以来、目標数字は一度も達成できなかった。
オリックスが提示した数字を真に受けた病院企業団は、直営の運営に比べて約177億円の経費削減が見込まれると弾いていたが、とんだ皮算用で終わった。PFI方式そのものに問題があったのである。
【日下 淳】
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