サムシング元代表・仲盛昭二氏の事例から
論理のすり替え
この裁判で仲盛氏の弁護を担当する安部光壱弁護士は、「今回の決定は非常に画期的だ。通常、こうした行政裁判で勝つことは難しい。しかし、迅速に国側の主張を退けて申立人の主張を認めてもらったケースはめずらしい」と語る。
決定後、国交省建築指導課の後藤氏に意見を求めたところ、「当方の主張が認められず、たいへん残念だ。取り消し処分の是非については基本事件で争うことになる。そもそも、今回のように一級建築士免許取り消し処分の執行停止を求める裁判が起こったケース自体が非常に少ない。今回の件について国側は、構造計算書の差し替えについては争点ではないと考えている。20件の物件で、構造計算書に一貫性がなく『不誠実な行為』に当たると判断したことについては、これから基本事件で判決が下されるだろう」とコメントした。
たしかに、今回の裁判はあくまで取り消し処分の執行停止が決定しただけで、「不誠実な行為」や「取り消し処分」の是非が判断されたわけではなく、それらは基本事件で判断される。しかし、ここで一番大事なのは「疎明資料は存在しない」と裁判所が認めていることである。
国交省はあくまで(A)の判決と(B)の決定とを区別する言い方だが、両者は連動していると考えるのが自然だろう。とすれば、これから本格化する(A)の裁判において国側が有利な判決を得るためには、さらなる疎明資料の提出が不可欠となる。
この点について、国交省に尋ねたところ「『偽装』の有無が問題となるものではないし、改良であろうが改悪であろうが、計算の一貫性、再現性のない構造計算書の作成については『不誠実な行為』と言わざるをえない」の一点張りだった。
そもそも、仲盛氏に対する国の一連の行動は、姉歯事件に見立てた「偽装」から始まったのではないか。それが、単なる「差し替え」で「偽装」とまで言えないとなると、その有無は問わないという。しかも、建物の安全性はすでに確認されている。すると今度は、「不誠実な行為」と言い方を変えて処分の対象にした。
こうした論理のすり替えの繰り返しで現在に至るわけだが、もはや国側の主張に「一貫性がない」のは明白だろう。
【大根田康介】
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