<「辞める理由」なし>
ところが、その月末が近づくと一転、「西川は自分でハラを切るつもりはないらしい」という別の関係者からの知らせ。実際、9月30日になっても西川氏の辞表は出されなかった。
「確かに『チーム西川』、別名『4人組』は、それぞれ9月末までに出身母体(三井住友銀行)に戻って完全に解体されました。これは、佐藤前総務相との約束事。しかし、西川氏自身は、政府が100%株式を保有する株主総会で承認され、続投する条件として佐藤大臣との約束通りに1年以内でのガバナンス強化(業務改善、是正措置)に取り組んでいる、と。だから少なくとも、来年6月まで社長を辞める理由はない、というわけです。亀井、原口両大臣は何とか辞任へ追い込みたいようですが」(総務省担当記者)。
そこで10月に入ると、亀井大臣が「私が責任をもって経営陣を一新する」(2日)、「西川社長ほか4社の全取締役も一新」(3日)といえば、原口大臣も「10月中に一新すべき」(6日)と、両大臣の口調も一段と厳しくなってきた。
ただ、西川氏とその背後に控える米国を含む政財界勢力を考えれば、西川氏側も黙ってはいないはず、と思っていると、予測通りである。桜井正光経済同友会代表幹事が、6日の定例会見で西川氏の進退問題について、「なぜ辞任しなければならないか。政府が人事に介入するには相当な説明が必要。国民は納得しないはず」と発言。経済界から西川体制擁護の声を上げたが、引き合いに出された「国民」とはどの辺りをさすのか。説得力はあまり感じられない。
さらに「西川サイドはカネ問題で亀井や原口を揺さぶってくる」(永田町関係者)という通り、12日付産経新聞はトップで「亀井氏側に献金」の見出しで、逮捕された西松建設関係者が自民党時代の亀井氏に個人献金していたことを伝えている。これが西川氏側の反撃かどうかはともかく、郵政民営化見直しとはまるで別次元の問題だ。
<背後に潜む、さらに巨大な闇>
10月5日付毎日新聞(朝刊)は、日本郵政絡みの注目すべき記事を載せている。民営化直後に郵政各社の広告を2年間(08~09年)、博報堂に絞って発注する独占契約を結びながら、その契約書類を取り交わしていなかったという。本誌既報の「終わりなき『日本郵政の闇』」で指摘した通り、本体(持ち株会社)の日本郵政はもとより、グル-プ4社の広告宣伝事業すべてが博報堂に集中。アリバイ作りのように他代理店へ2~3回発注していたのも道理、博報堂への発注は官報によれば当然ながら随意が多いが、競争入札も少なくないからだ。独占契約しながら競争入札とはどういうことか。姑息というより虚偽そのものだ。
郵政民営化見直しは、コンプライアンス(法令順守)もガバナンス(統治)もない「西川郵政の闇」解明である。毎日新聞の同記事は、08年度の博報堂への発注額を222億円としているが、郵政関係者によれば09年を含めて総額300億円で契約しているという。しかし、これも氷山の一角。日米にわたる、金融部門から不動産部門まで、さらに巨大な闇があるからだ。
亀井、原口両大臣の発言から政府側の意向は、10月下旬からの臨時国会に「株式上場凍結」および「民営化見直し」法案を提出。それまでに西川氏が辞任しない場合は、臨時株主総会を開いて解任という強行手段を視野にいれている。しかし、巨大な闇があるほど、西川氏も簡単には引けないはず。どう決着をつけるのか。まさに新政権の力量が問われている。
(了)
恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。
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