―テムザックの動きを中心とした同時代レポート
《テムザックと、東大以外で先端ロボット研究を行なっている大学の研究者が集まり「ベーダ国際ロボット開発センター」を設立したのも、これまでの東大閥が中心の日本政府のロボット開発政策に対するアンチテーゼに見える》
日本政府もロボット産業育成のために毎年それなりの予算は投入している。
しかし残念ながらそこには戦略性が欠け、これまで東大閥を中心として偏った研究予算配分などにより、せっかくの投資が活かされていないことも指摘されるべきである。
民主党政権のもとで本年度の補正予算の見直しが行なわれているが、麻生内閣当時に将来性のある新技術への研究投資に2,700億円という予算がつけられていたのも見直しの対象となっているだろう。
ただ無駄が見えやすい公共事業と異なり、大学を中心とした研究予算の配分や削減をこれからどのような基準で進めていこうとしているのか、民主党も明らかにしていない。
政府の科学技術分野への予算配分は、文部科学省や経済産業省、厚生労働省、国土交通省、農林水産省、総務省など多くの省庁にまたがっているが、この予算配分もこれまで大きな利権として、東大出身の限られた官僚・大学関係者がコントロールしてきたのも事実である。
ロボット技術の研究予算も、その多くが東大と東大出身者の多い大手企業へ配分され、他の大学や中小企業に回るのは限られたものとなっている。
ロボットは、「様々な技術を統合する技術」だと言っても差し支えない。
まずロボットをつくるための分野として、機械メカニズム、制御、通信、駆動、バッテリー、センサー、音声認識などAI、更に応用分野として医学、介護、建設、土木、心理学など本当に様々な分野にまたがってくる。
こうした様々な分野の研究者は、東大にも当然いるが、独自な発想を持ち、他の分野の研究者や企業と柔軟にロボット開発できるのはむしろ、東大以外の大学やベンチャー企業に多いのが実態だ。
テムザックと、東大以外の先端ロボット研究を行なっている大学の研究者が集まり、「ベーダ国際ロボット開発センター」を設立したのも、これまでの東大閥が中心の日本政府のロボット開発政策に対するアンチテーゼに見えてくる。
莫大な研究予算を投入した政府のロボット開発事業で、本当に実用となるロボットのアウトプットがまだ全く見えてきていないのに対して、予算はわずかでも独自の発想を持つ研究者が一堂に集まり、知恵を絞った方がロボットの実用化に早く到達しようとしている。
新しい民主党政権に望むのは、科学技術政策についてもこれまでの官僚機構が進めてきた路線でいいのか、またその技術を評価するメンバー自体がこれまでの東大中心のままでいいのかの検討をしていくことだ。そのことが日本の科学技術と産業振興を効果的に立て直す第一歩となるだろう。
【松尾 潤二】
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