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特別取材

役者だけでなく、市民が参加する劇場へ ─ 嘉穂劇場の取り組み(上)
特別取材
2009年11月 4日 14:18

 1931年に完成して以来、70年以上の歴史を持つ嘉穂劇場(福岡県飯塚市)。地元飯塚市だけでなく、県外から多くの人々を集め、様々なイベントに取り組んでいる。その人気はどこから来るのか。NPO法人・嘉穂劇場代表、伊藤英昭氏に話を伺った。

嘉穂劇場を残したいという地元の人々の思い

嘉穂劇場 概観
嘉穂劇場 概観
 ──個人経営からNPO法人へ移ったきっかけを教えてください。

 伊藤 嘉穂劇場が落成したのは1931年(昭和6年)で、もう70年以上経ちます。その後、6年前の2003年まで個人経営していましたが、03年の大水害で被害を受けました。
 復旧には膨大な金額がかかります。個人企業ではうまくいかないということになりました。毎年、全国の芝居小屋が集まって芝居小屋会議というものをやっていたのですが、ちょうどそのころ開催されていた芝居小屋会議が即、復旧委員会になりまして、その会議の中でこの劇場をNPO法人にしてしまおうという話になりました。

 我々が思っていた以上にこの劇場を残したいという地元の人たちの気持ちが強かったのですね。それがニュースで発信され、行政からも市の登録文化財への登録や、宝くじやオートレースの助成金などの助成金をいただくこともできましたし、募金だけでかなりの額が集まりました。それだけ支援をいただけたのはありがたいことです。

 ──水害のときも、著名人の方が集まってチャリティイベントを行なうなど、かなり大規模なイベントが行われていたことを記憶しています。

 伊藤 この劇場は、地元の方々が日本舞踊の発表会やイベントで出たことのあるステージや、大衆演劇の役者さんの初舞台だったりするわけですよね。この建物でなきゃいけない、というわけではないのですが、彼らにとって「自分たちの育った舞台」なんですよね。劇場があることに関しては日頃何も思わないけど、いざ無くなろうとしたら「ちょっと待て」という。
 災害のさいに、このままなくなるかもしれないと思った方も多かったと思います。彼らの育った原風景がなくなるのは偲びがたいということで、みんなが残そうと協力した。そういう思いが詰まった劇場なのですね。それがこの劇場を残そうとした原動力です。子どものころに遊んだという記憶があったから、この前の水害の時も、奈落に水がたまっているから排水する、といったある程度劇場の構造がわかるわけです。そのころからただの劇場ではないんだと思うようになりましたね。個人の持ち物ではなく、町の財産です。

(つづく)

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