チェルノブイリ医療支援ネットワーク理事 寺嶋悠氏
緊急支援から本格的な医療支援へ
――医療支援はいつから始められたのですか。
寺嶋 91年12月にソビエト連邦が崩壊した後、経済的・社会的な混乱がありました。ようやく社会が落ち着きをみせはじめていた90年代半ば頃になると、チェルノブイリ周辺の子どもたちの間で甲状腺ガンが急増しているという知らせが入るようになりました。
ちょうどサナトリウム・九州の運営が一段落付き、私たちは次の展開として、より具体的な医療支援に取り組みたいと考えていました。甲状腺ガンの増加は耳に届いていたのですが、具体的な行動を起こそうにも日本やベラルーシ在住の専門家とのつながりがなかったため、何もできずにいました。その頃、広島に甲状腺ガンを中心とした医療支援について詳しいチームがいるという情報が入り、すぐさまお会いして相談しました。
放射能被曝と甲状腺に詳しい広島の医療関係者の考えは、「現地の医療機関と対等な関係で医療支援に取り組み、市民グループ単独で取り組むには難しい現地専門家の人材育成まで視野に入れる」というものでした。私たちが目指した「必要な支援を必要なところへ」という考えと、現地で自立した医療システムを作りたいという願いと正に一致し、互いに連携することが決まりました。
そして97年7月、甲状腺ガン検診のプロジェクトが始まったのです。モデルケースとして、ガンが特に多発していた地域で5年間に渡り検診を行い、毎年2回、夏と秋に検診団を派遣して、ガン検診のための医療技術の向上を図っていきました。現在は拠点をブレスト市に移し、年に1回のペースで検診を行っています。
現在、国内でチェルノブイリ支援に取り組む主な団体はほかにも数団体あります。事故後に最も増加した甲状腺ガンに私たちは焦点を当てていますが、他にも被災者や劣化ウラン弾で被爆した方の白血病支援をしたり、病院や医療施設を支援したり、サナトリウムを現地で運営したりしている団体もあります。放射能被爆による決行被害は多様で、現在でも続いています。
(つづく)
甲状腺ガン
甲状腺とは、咽喉にある機関で、新陳代謝に関わりのある成長・生殖ホルモンなどを分泌する内分泌腺のこと。事故によって放出された放射性ヨウ素による被曝で、被災者の間で甲状腺に悪性腫瘍ができる「甲状腺ガン」が多発した。特に、事故当時0歳~6歳だった世代が最も影響を受け、90年代半ばには小児甲状腺ガンが急増。現地の医療技術の遅れが発見の遅れや誤診など、状況をさらに悪化させた。
WHO(世界保健機関)による発表では、甲状腺ガンはチェルノブイリ原発事故と因果関係の認められた唯一の疾病である。しかし、現地にはその他の病気との関連性を指摘する声も多い。
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