BYDの拡大路線は電池業界にとどまらず、2003年には地元の中小自動車メーカーを買収し、電池の開発メーカーとしての強みを生かして電気自動車の開発に乗り出したのである。おりしも、中国政府は国産自動車メーカーの育成に本腰を上げて取り組み始めた矢先であり、電気自動車やハイブリッド車の研究開発には資金面での援助を惜しまないことになった。こうした中国政府の産業育成政策はBYDにとって願ってもない追い風となっている。2008年には、BYDは満を持してF3DMと呼ばれるセダンを国内で売り出した。
そうした積極的な研究開発と市場参入の動きに着目したマンガー氏は、バフェット氏を説得し、この新興自動車メーカーに対する本格的な投資を促したのである。自らも納得したため、バフェット氏はBYDの25%の株式を取得しようとしたが、交渉の結果10%で折り合った模様である。しかし、この投資によりバフェット氏の会社は投資後わずか1年で8億ドルもの利益を稼ぎ出すことができた。もちろん、王社長も世界の大富豪400人のリストに名前を連ねるまでになったことは言うまでもない。
強気の王社長は環境、省エネといった世界的潮流の追い風を受け、今後の事業展開に大きな自信を見せている。世界最大の自動車市場となった中国で2015年にはナンバー1の座を目指すと言う。2009年の売上台数の目標は40万台だが、2025年には1,000万台の販売達成の目標をも掲げている。BYDはまさに飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長を遂げているわけだが、外見上はトヨタのエスティマのコピーではないかとか、ポルシェのカイエンを真似しただけではないかといった批判の声にもさらされている。確かにデザイン力に関しては世界の水準にはまだ達していないといわれても仕方がない。
【浜田 和幸(はまだ かずゆき)略歴】
国際未来科学研究所代表。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。
ベストセラー『ヘッジファンド』(文春新書)、『快人エジソン』(日本経済新聞社)、『たかられる大国・日本』(祥伝社)をはじめ著書多数。最新刊はオバマ新政権の環境エネルギー戦略と日本への影響を分析した『オバマの仮面を剥ぐ』(光文社)。近刊には『食糧争奪戦争』(学研新書)、『石油の支配者』(文春新書)、『ウォーター・マネー:水資源大国・日本の逆襲』(光文社)、『国力会議:保守の底力が日本を一流にする』(祥伝社)、『北京五輪に群がる赤いハゲタカの罠』(祥伝社)、『団塊世代のアンチエイジング:平均寿命150歳時代の到来』(光文社)など。
なお、『大恐慌以後の世界』(光文社)、『通貨バトルロワイアル』(集英社)、『未来ビジネスを読む』(光文社)は韓国、中国でもベストセラーとなった。『ウォーター・マネー:石油から水へ世界覇権戦争』(光文社)は台湾、中国でも注目を集めた。
テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍中。「サンデー・スクランブル」「スーパーJチャンネル」「たけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「みのもんたの朝ズバ!」(TBS)「とくダネ!」(フジテレビ)「ミヤネ屋」(日本テレビ)など。また、ニッポン放送「テリー伊藤の乗ってけラジオ」、文化放送「竹村健一の世相」や「ラジオパンチ」にも頻繁に登場。山陰放送では毎週、月曜朝9時15分から「浜田和幸の世界情報探検隊」を放送中。
その他、国連大学ミレニアム・プロジェクト委員、エネルギー問題研究会・研究委員、日本バイオベンチャー推進協会理事兼監査役、日本戦略研究フォーラム政策提言委員、国際情勢研究会座長等を務める。
また、未来研究の第一人者として、政府機関、経済団体、地方公共団体等の長期ビジョン作りにコンサルタントとして関与している。
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