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世界中から研修生が来る農園  「自然農」で命の営みを学ぶ(中)
特別取材
2009年11月12日 08:00

<「農業嫌い」が「農業指導者」に>

 今からおよそ25年前、松尾さんは観光農園を営む家に嫁いだ。それ以前まで農業とは無縁のOL生活をしていたのだが、突然、農家の嫁になってしまったのである。
 「当時は農業が嫌いでした」
 嫌々ながら手伝いをしていたある日、夫が病気で倒れてしまった。その後、農業による複合汚染を書籍で知る。健康をつくるはずの農業が、健康に害を与えている実態を知ったのである。これではいけない―そう思った松尾さんは、自分の思い描く環境と共存できる農業を志すようになる。最初に手をつけたのは無農薬農法。6年間にわたり、他の農家のもとで修行をした。環境と健康にいい野菜を作っているはず。しかし、何かが違う。
 「いいことをしているのに、心に何か不安感が残っていました」
 もやもやした感情を抱いたまま、日々を過ごしていた。そんなときに出会ったのが、自然農なのである。20年ほど前のことだ。川口由一氏の著書『妙なる畑に立ちて』を手にした。生命の流れのなかでの農業を知った。「これが私の生きる術」と、松尾さんは感じたと言う。
 以後、松尾家所有の竹林を少しずつ切り開き、畑をつくっていった。現在では米をはじめ、ナスやピーマンなど約80種類の作物をつくるにまで至っている。
 「草と共存させる自然農は、『足ることを知る』農業です。上手くいくこともあるし、いかないこともある。人の手と自然との折り合いをつけてやっていく農業なので、たくさん収穫できるわけでもないですが、命の営みを感じることができます。それが何よりも楽しいのです」
 コンバインやトラクターなどは使わない。鍬(くわ)で畝をつくり、鎌で収穫する。すると収量は下がってしまう。ところが、それが是であるか非であるかは、松尾さんにとっては問題ではない。松尾さんにとって重要なのは、「そのほうが、より生命の力を感じることができる」という点なのだ。

自慢の畑に立つ松尾靖子さん。大地に絵を書くように作物を植え、美しく仕上がっていく様に至上の幸せを感じるという。
(つづく)

【柳 茂嘉】

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