<どの旅行丸が沈没してもおかしくない>
A氏は旅行社の中堅幹部社員だ。いろいろな経営者の集まりに顔を出してまわった。結果として個人のネットワークを構築したのである。会社側としてA氏の新規開拓力を評価して新事業の分野にいつも配置されてきた。同氏は期待に応えてどこでも成果を残している。このA氏がいうには、「夏場以降は売り上げが激減している。国内外、30%以上のダウンだ。社員たちは浮足だっている。また業界では『どこが潰れてもおかしくない』と囁き合っている状態である」そうだ。
新聞紙上でも流れていたが、ある旅行会社は300店舗を閉鎖するリストラを発表した。ネットビジネスにウエイトを移行させることは充分に察知できる。当然、社員たちは「ヤバい」という危機感に右往左往する。本人たちは旅行業から足を洗い、転進する自信がない。心底彼らが、恐れているのは仮に自社の船が沈没したら他に乗ることのできる船が数少ないということである。どの旅行丸も沈没する可能性があるからパニック状態に陥ったのだ。
<個人力が試される>
「Aさん!!会社が行き詰ったらどうしますか?」という意地悪な質問をしてみた。「まー、弊社は最悪、潰れることはないと思いますが、人員整理、減俸は強行されるでしょう。私自身が首を切られることはないでしょうが、ビジネス人生の転機の年になっています。近々、決断が迫られるでしょう。上司たちが引退して一挙に昇進できる局面も予想されます。または独立の選択股も検討することにもなりかねません。ケースバイケースで対応する覚悟です。いまこそ個々人が持っている『個人力』が問われていますね」。
A氏が今後、想定されるいかなる事態にも不動心でおられる基盤はこの『個人力』に揺るぎない自信があるからだ。同氏は確かに会社のブランドを背景に仕事の実績を積んできたのは事実である。だが一方では『Aの旅行会社』と自己アピールして業務完遂を行なってきた。弊社でも社員の方々に口酸っぱく強調していることがある。「『データ・マックスの石崎、データ・マックスの緒方』と云いなさんな!!『石崎のデータ・マックス、緒方のデータ・マックス』と云いなさい」ということだ。「『データ・マックス丸』に一生、乗船できる保証はないのだから個人を宣伝しなさい」と助言している。A氏が指摘している『個人力』は日常の鍛錬の大切さを説いているのだ。
A氏に質問をしてみた。「御社にはこの卓越した『個人力』を身につけて悠然と事を構え切れる人材はどれだけいますか?」と。思慮深く考えたA氏は「20名に1名はいますね」と回答してくれた。5%の確率で『個人力』に磨きがかかっている逸材が組織にいるとなれば、組織としては優秀と評価できる。そういう企業ですら沈没の懸念があるほどデフレ恐慌は深刻なのである。
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