道州制を見据えた地域分権社会で、「九州道」として取組むべきことは、やはり将来性の高い産業の育成であろう。これまで「九州道」では、自動車産業やIT産業に続いて、環境技術や新エネルギー、ロボットなどが注目されてきた。そんななか、新しい産業の核となり得るものとして、九州大学医学部を中心とした先端医療技術の研究が着実な進歩を遂げており、大きな可能性を秘めている。平成23年3月には「九州大学先端融合医療研究開発センター」の開設が決定しており、その設立準備の中心となっている九州大学大学院医学研究院の橋爪誠教授に、「九州道」における先端医療技術研究の最前線を聞いた。
薬事法、時間、人材、資金…
最先端医療機器開発の「リスク」
―まず、「九州大学先端融合医療研究開発センター」設立までの経緯をお聞かせいただけますか。
橋爪 現代の医療治療に必要な技術として期待されているものの一つが、患者さんへの負担をできるだけ軽減する「低侵襲医療」です。たとえば内視鏡による手術は、以前の開腹手術と比べて切開部分が小さく、ピンポイントで治療が行なえるので患者さんの負担が少なく、病後の回復も早くなりました。しかし、こうした最新の技術を必要とする治療機器の開発では、残念ながら日本は立ち遅れていて、国内の医療現場では8割ぐらいが欧米で開発された治療機器を使わざるを得ない状況です。
もちろん、日本でも優れた治療機器を作っているメーカーさんもありますが、全体として日本の治療機器開発は進んでいないのが実態です。なぜなら、治療機器として販売・利用できるようになるまでには、薬事法など厳しい認可を得ることが必要で、膨大な時間と人材・資金がかかり、民間企業にとっては負担が大きく、とくに命に関わる先端医療機器はハイリスクなものとして、どの企業も積極的に開発を手掛けることができていない状況だからです。
アメリカの場合には、医療機器の開発実用化促進のために法律が制定されており、認可までの判断基準がはっきり定められています。しかし、日本の場合には医療機器評価ガイドラインがなく、各企業が投資を手控える原因にもなっています。それは、日本の薬事法が「薬の認可」が中心で、「医療機器の認可」についての対応が遅れていたからです。
企業にとっては、医療保険制度が中心の日本の医療で、保険報酬の裏づけがない治療機器を開発しても実際の医療現場で使ってもらえる可能性は低く、いくら優れた技術が開発されても積極的に投資ができなかったのです。
こうした日本の立ち遅れた構造に、政府の関係機関、厚生労働省、文部科学省、経済産業省と、関連の民間企業がようやく問題意識を持って立ち上がり、産官学によるコンソーシアムの結成や「医療機器審査ガイドライン委員会」、「医療機器評価ガイドライン委員会」が設置されました。その具体的展開のひとつとして、企業参加による研究開発から臨床試験まで一貫して実施できる「九州大学先端融合医療研究開発センター」が開設されることになったのです。
【松尾 潤二】
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