<行き場のないマンション売り子>
『節度がない、節操がない』の典型が、マンションのセールスマンたちだ。彼らを悪人に仕立てるつもりはない。業界の体質が、彼らの気質を形成しているのだ。要は、会社・経営者の悪口・批判を平然と言う。「言い訳達者」な人種なのだ(売れた時には自分の手柄。売れ残ると企画のせいにするという行動パターンの特性がある)。他のライバル社に転職したとする。いままでの同僚たちをスカウトすることもためらわない。恩も義理もへったくれもあったものではないのだ。彼らは「1カ月で何戸売るか」で、評価・稼ぎが決まる宿命を背負っている。だから条件の良いところを転々とする行動習性がある。才覚のある人材は会社を起こす。だが、大半の凡人はリスクからなんとか回避しようと渡り歩く(転職)。
ところが、激変した。どこの『マンション丸』も沈没寸前だ。マンション売り子たちを新規募集する、もの好きな会社はない。あるのは、リストラ首切りを強行する業者ばかりである。だから、労働市場に行き場を失った『売り子』たちが溢れている。自力で事業を起こすしか道は残されていない。本当の『個人力』が問われているのである。実力のない35歳以上の『売り子』たちは悲惨だ。お声がかからない。
<一緒に沈む覚悟で生きる>
以前、このコーナーで紹介をしたことがある。ある建設会社の経営者が「首切りはしない。だから全員、30%の給料をカットして頂きたい。皆でこの難局を凌いでいこう」と述べた(仮称、博多建設とする)。その後の動向を、経営者に聞いてみた。
「コダマさん!!7年前までは、私も現場監督者でした。私にも技術者としてのプライドがあります。『俺の力でこの現場を仕上げてみせる』という意気込みで働いてきました。『俺の技術力は、博多丸だけではなく、どこの建設丸でも評価してくれるぞ』という自信満々でいたのですよ」と自分の心境を披露してくれた。「もし、30%給料のカットを通告したら、腕自慢の、惜しい人材が離れる」という一抹の不安があった。
ところがだ。周囲を見渡すと、豊漁旗を揚げている『建設丸』は一隻もいない。人材をどんどん募集するところは稀だ。さすが、世間知らずの職人・技術者たちもはじめて「世のなかは真っ暗闇なのだ。どこが潰れてもおかしくない時代なのか」との認識にいたる。博多建設も、ご多分にもれず受注が30%減った。それでも社員たちは「まだ我が社は他社と比較して過去の蓄積があるから潰れることはない。我々が一踏ん張りをすれば、業績は回復できる」と理解して、結束をはかってくれたそうだ。
この建設会社の経営者は語る。「同業者の数は半減するでしょう。しかし、半減したからといって生き残った業者が売り上げを増やすということもないでしょう。我が社が30%の落ち込みで踏み止まれるとは限りません。さらにもう一段の落ち込みがあるという覚悟が必要です。ですが、我が社の救いは、今のところ従業員全員が『博多丸を潰すな』という意識で、堅いスクラムを組んでいることです」。
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら