1993年にはオーストラリア各州政府の間で水取引に関する広範な取引細則が決められた。あらゆる水資源について、どのような条件の下であれば、どの程度まで売買取引の対象にすることができるのか、細かな規則が決められたのである。一方で、オーストラリア政府は一般の国民に対しても、水の使用に関して実に細かな使用ルールとでも呼べる規則を打ち出している。
気候変動の影響を受け、水資源が不足し始めていることは明らかだ。そのため個人の家庭においても水の使用に関し、様々な形で制限が施されているのがオーストラリアである。たとえば、洗車には水を使わない日が決められている。また、庭の水やりは朝晩決められた時間のみ許可されるといった具合である。
水担当の大臣も置かれているオーストラリア。農業国として輸出産業の稼ぎ頭である穀物や畜産品を安定的に確保するため、水の重要性が強く認識され、政府の政策にも色濃く反映されているようだ。農業改革に向けて様々な試みが展開されているが、2009年からは特に水資源の有効活用と個人や企業における水のリサイクル、節水指導が徹底的に行われるようになってきた。
貴重な水を安い値段で買い入れ、保存するための投資や技術的なアドバイスを行う企業も数多く存在している。そうした企業のひとつ、タンドウはオーストラリアの農家に対する節水技術並びに効率的な灌漑事業に関するサービスが売り物だ。同社の責任者に言わせれば、「確かに水に対する投機的な動きもあるにはあるが、水のマーケットに参入している投資家の多くは我が国の農業を支えるという観点から水に関心を寄せているケースが大半である」とのこと。
最近では農業とは関係のない企業の間でも連合して水を買い入れ、農家の直面する水不足を支援するというビジネスで利益を上げようとする動きも出てきた。実はこうした水の取引市場に関しては、エネルギー取引会社として急成長を遂げたアメリカのテキサスに本拠を構えた、あのエンロンでも世界的計画を進めていた時期があった。インターネットを活用した水取引を新たに立ち上げようとし、ネット上で世界各地の水の売買、そして貯蔵と運搬を行う市場を新たに創出しようとしていたのである。
2000年の時点でエンロンは天然ガスや電力と同じように、水を先物商品として扱う市場の誕生に向けて政治的にも国際的にも取り組みを強化しようとしていた。もちろん、同社は本格的な水市場を立ち上げる前に放漫経営が災いし、破綻することになってしまったが、エンロンが目指したネット上の水売買市場に関する構想はその後も引き継がれている。
【浜田 和幸(はまだ かずゆき)略歴】
国際未来科学研究所代表。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。
ベストセラー『ヘッジファンド』(文春新書)、『快人エジソン』(日本経済新聞社)、『たかられる大国・日本』(祥伝社)をはじめ著書多数。最新刊は『ノーベル平和賞の虚構』(宝島社)。近刊には『オバマの仮面を剥ぐ』(光文社)、『食糧争奪戦争』(学研新書)、『石油の支配者』(文春新書)、『ウォーター・マネー:水資源大国・日本の逆襲』(光文社)、『国力会議:保守の底力が日本を一流にする』(祥伝社)、『北京五輪に群がる赤いハゲタカの罠』(祥伝社)、『団塊世代のアンチエイジング:平均寿命150歳時代の到来』(光文社)など。
なお、『大恐慌以後の世界』(光文社)、『通貨バトルロワイアル』(集英社)、『未来ビジネスを読む』(光文社)は韓国、中国でもベストセラーとなった。『ウォーター・マネー:石油から水へ世界覇権戦争』(光文社)は台湾、中国でも注目を集めた。
テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍中。「サンデー・スクランブル」「スーパーJチャンネル」「たけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「みのもんたの朝ズバ!」(TBS)「とくダネ!」(フジテレビ)「ミヤネ屋」(日本テレビ)など。また、ニッポン放送「テリー伊藤の乗ってけラジオ」、文化放送「竹村健一の世相」や「ラジオパンチ」にも頻繁に登場。山陰放送では毎週、月曜朝9時15分から「浜田和幸の世界情報探検隊」を放送中。
その他、国連大学ミレニアム・プロジェクト委員、エネルギー問題研究会・研究委員、日本バイオベンチャー推進協会理事兼監査役、日本戦略研究フォーラム政策提言委員、国際情勢研究会座長等を務める。
また、未来研究の第一人者として、政府機関、経済団体、地方公共団体等の長期ビジョン作りにコンサルタントとして関与している。
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