カリフォルニアの大富豪として知られるスチュワート・レズニック氏が経営するロール・インターナショナル・コーポレーションによって、アメリカにおける新たな水取引市場の誕生が間近に迫っている。レズニック氏と言えばアメリカ最大の農業関連会社で除草剤や化学肥料を製造するステラ・アンド・パラマウント・アグリビジネス社のオーナーでもある。同社は世界最大のピスタチオとアーモンドの生産企業としても知られている。
と同時に、レズニック夫妻は政治活動にも熱心に取り組んでおり、カリフォルニア州においては民主党に対する最大の資金提供者として有名な存在。ゴア元副大統領が著した『不都合な真実』をベースに制作された同名の映画に関しても多額の資金提供を行っていたものである。
現在、レズニック氏の会社はアメリカでは最大の水のブローカー企業として頭角を現している。カリフォルニア州内の水源地を買い占め、自らが関与する水市場において最も高い値をつける入札者に水やその使用権を売りさばき大きな利益を手にしていると言われる。資本主義経済の権化のようなアメリカにおいては、水さえも新たな投機ビジネスの対象になっているわけだ。
ジェネラル・エレクトリック(GE)はアメリカ企業とすれば珍しい100年企業として大きな尊敬を集め、各方面に影響力を行使している。発明王エジソンが興した世界最大の電気会社であったが、過去1世紀の間に様々な業態変更を重ねて今日に至っている。扱う主力商品も電気関係からジェットエンジン、医薬品、金融、メディアと幅を広げ、今日では環境関連事業を最も成長が期待できる分野として企業戦略の中核に位置付けている。
中でも水ビジネスはその柱となっているようだ。ジェフリー・イメルト会長は「GEは水の総合デパートを目指す」とまで言い切っている。2008年11月、ニューヨーク州で開かれた「水資源保全会議」において、同会長は排水のリサイクル・ビジネスに参入する意気込みを熱く語った。
イメルト会長の水ビジネスにかける情熱はすさまじく、カナダのゼノンをはじめ、世界の有力な水企業を相次いで買収し、わずか数年で水ビジネスに必要な要素技術を一通り揃えてしまった。そして今では、高機能排水浄化膜のシェアーでは世界ナンバーワンに躍り出ている。
このGEが今後の水ビジネスにとって最も重要な市場としてとらえているのは環境対策で遅れている中国である。2008年以降、中国各地の工業施設に対し、排水処理プラントを相次いで納入している。オバマ大統領やクリントン国務長官の中国訪問にも同行し、北京や上海といった大都市近郊に建設が予定されている、環境循環型コミュニティの中で使われる水関連技術の売り込みに成果を上げているようだ。中国の水ビジネスの市場規模は2015年には25兆円を超えると見られている。その6~7割を占める下水ならびに排水処理の分野でGEは着々と地盤を固めているのである。
【浜田 和幸(はまだ かずゆき)略歴】
国際未来科学研究所代表。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。
ベストセラー『ヘッジファンド』(文春新書)、『快人エジソン』(日本経済新聞社)、『たかられる大国・日本』(祥伝社)をはじめ著書多数。最新刊は『ノーベル平和賞の虚構』(宝島社)。近刊には『オバマの仮面を剥ぐ』(光文社)、『食糧争奪戦争』(学研新書)、『石油の支配者』(文春新書)、『ウォーター・マネー:水資源大国・日本の逆襲』(光文社)、『国力会議:保守の底力が日本を一流にする』(祥伝社)、『北京五輪に群がる赤いハゲタカの罠』(祥伝社)、『団塊世代のアンチエイジング:平均寿命150歳時代の到来』(光文社)など。
なお、『大恐慌以後の世界』(光文社)、『通貨バトルロワイアル』(集英社)、『未来ビジネスを読む』(光文社)は韓国、中国でもベストセラーとなった。『ウォーター・マネー:石油から水へ世界覇権戦争』(光文社)は台湾、中国でも注目を集めた。
テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍中。「サンデー・スクランブル」「スーパーJチャンネル」「たけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「みのもんたの朝ズバ!」(TBS)「とくダネ!」(フジテレビ)「ミヤネ屋」(日本テレビ)など。また、ニッポン放送「テリー伊藤の乗ってけラジオ」、文化放送「竹村健一の世相」や「ラジオパンチ」にも頻繁に登場。山陰放送では毎週、月曜朝9時15分から「浜田和幸の世界情報探検隊」を放送中。
その他、国連大学ミレニアム・プロジェクト委員、エネルギー問題研究会・研究委員、日本バイオベンチャー推進協会理事兼監査役、日本戦略研究フォーラム政策提言委員、国際情勢研究会座長等を務める。
また、未来研究の第一人者として、政府機関、経済団体、地方公共団体等の長期ビジョン作りにコンサルタントとして関与している。
【最新刊】
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら