中洲の厳しい現状を実感させられる建物がある。昭和通り沿いの中洲歓楽街入口に建つ商業施設『ゲイツビル』だ。ひっくり返すととても景気の良い名前になるが、同ビルの状態は真逆だ。エスカレーターがある中央スペースは吹き抜けになっており、1階から見上げれば、四方八方シャッターが閉じられている様子が分かる。1階には、書籍販売、DVDレンタルを営む「TSUTAYA」があり、訪れる客は決して少なくはない。しかし、何もないとしか思えない2階より先へ、エスカレーターで上ろうとする人は皆無だ。
中洲に活気を取り戻す"火付け役"として、期待を集めていた同ビルだが、2006年のオープン当初から出店数が少なかった。交通の便はいい。地下へ降りれば、福岡市営地下鉄「中洲川端駅」につながっている。昭和通りに面していることもあり、自家用車で訪れる人にも便利なはずだ。
同様の商業ビルは、中央区天神に複数、付近には大型商業施設「キャナルシティ博多」があるが、このように際立って寂しい光景を露呈しているところはない。逆に、その立地環境が災いしたのだろうか? すぐ近くには、中洲川端商店街もある。ドーナツの輪の中心に建てたことが問題点とも考察されるが、長年続いた不況が背景にあることは言うまでもない。また、ここまで閑散としていると、益々、出店への意欲が削がれてしまうだろう。
オープン当初から続いた苦境を打破すべく、登場したのが2007年12月にオープンした福岡市唯一の場外馬券場「JRAエクセル博多」だ。『飲む、打つ、買う』は、男の3大遊び。競馬で遊んだ人が中洲に流れる。その経済効果に期待する声も多かった。だが、残念なことに同馬券場は、最大568席の有料制。無料で利用できる「ウインズ」に比べ、その集客効果は少ない。
ビルの外観に目立った看板等がないことも問題である。「JRAエクセル博多」の存在を示す広告等は、メインエントランスに貼りだされたG1レースのポスターが数点のみ。エレベーター近くのフロアガイドに、その名称のみが書かれているだけで、初めて訪れる人にとっては不親切であると言わざるを得ない。四方八方シャッターが閉じられている2階以上を目にすれば、「馬券場は無くなってしまったのではないか」と思う人も多いのではないだろうか?
「中洲ゲイツビル」のすぐ近く、中洲大通り沿いに新たなビジネスホテルの建設が始まっている。建築元は、NTT都市開発株式会社九州支店。標識及びお知らせを見ると、敷地面積は1,788m2、地上14階、地下0階、客室数は290となっている。宿泊料は1万円前後を予定。周囲に比べると、極めて大きな建築物だ。完成を予定している2011年に、経済状況がどうなっているかは分からないが。はたして、これが時流に合っているものなのかどうか? 大型施設の失敗は、周辺地域のイメージダウンにつながると考えられるだけに、同ホテル事業の行方に注目したい。
(つづく)
長丘 萬月(ながおか まんげつ)
1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。
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