国の直轄工事を止めた漁協の力には脱帽するしかない。昨年10月に国土交通省九州地方整備局(以下、九地整)が発注した『博多港(須崎ふ頭地区)泊地(-12m)浚渫工事(その2)』は、施工業者が宮川建設(福岡市)と淺川組九州営業所(北九州市小倉南区)で構成する「宮川・淺川経常建設共同企業体」となっていた。決定したその日に、漁協側の要請によって、事実上工事がストップしていた。
なぜ工事を止めたのかについて、福岡市漁協の組合長と、実際に工事を止めた「博多湾漁業権管理委員会」の委員長に話を聞いた。まず、市漁協トップである組合長の話の要旨と、それに対する疑問点は次のとおりだ。
福岡市漁協組合長の話と疑問点
「平成19年はどうしようもない不漁だった。漁師の生活にかかわるような有り様だったが、年の暮れにアナゴやタコの稚魚が見つかったというので、来年はいいかも、と期待を持った。しかし、長年の浚渫工事で『シルト』が堆積しており、稚魚が死ぬ原因と見ていた。せめて稚魚が成長するまで浚渫を待ってもらおうということになった」。
ここでいう「シルト」とは、一般的に「浮泥」とも呼ばれる海中の浮遊・堆積物である。様々な原因で発生するとされるが、博多湾は特に浮泥が大量に存在するとされる。環境破壊物質であることは間違いない。
浚渫工事などが行なわれると、海底に沈殿した浮泥が拡散し、浚渫工事が行なわれている海域外の稚魚などに悪影響を及ぼすということだ。
森組合長に、稚魚の成育にはどれくらいの期間を要するのか聞いたところ、「6~7ヵ月」との答えが返ってきた。そうなると、昨年6月に発注され、大手マリコン若築建設が受注した『博多港(須崎ふ頭地区)泊地(-12m)浚渫工事』は、当然止められていなければならない。しかし、現実には同工事には1件のクレームもなかったという。おかしな話である。
なぜ、若築建設の浚渫工事は止めなかったのかと尋ねたところ、組合長は「若築の(浚渫工事)は宮川さんの工事(問題の着工延期の工事)より、後でしょうが」と言い出した。
完全な勘違いである。若築建設が施工した浚渫工事のほうが先であることを説明すると、「もうこれ以上は分からない」と説明を放棄した。
やはり何かがおかしい。
(つづく)
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