「中洲は東京で例えるなら、「銀座」から「新宿」になってしまった」。
これは、すでに閉店している高級クラブのママの言葉だ。不況が進むに連れ、4、5年前からリーズナブルな料金で遊べるキャバクラが増殖。それに伴い悪質な客引きが増えた。一方では、違法風俗店や違法カジノが現れ、中洲のイメージは一気に悪くなってしまった。取締が強化され、そうした悪質な行為を見かけることはなくなったが、一度与えてしまった悪い印象を挽回していくには、時間がかかるだろう。
高級クラブ嬢が「プロ」とするなら、キャバクラ嬢は「アマ」。少し前までは質より量の時代で、街を歩く女性へのスカウトが横行し、問題にもなっていた。見た目がよいだけで、たいした会話もできない若い娘が接客をしていたのである。下がる料金に比例して、サービスの質も劣化していた。
「あなたはウチの店にどれだけ客を連れて来られますか? 売上をどれくらい上げられますか? もし、達成できないときはどうしますか?」。今、中洲のキャバクラ嬢の面接で真っ先に訊かれる質問だそうだ。今は紹介が無ければ店で働くことは厳しい。求められているのは即戦力。かつてのスカウトマンたちはエージェント化し、実績があるお抱えのキャバクラ嬢を店に紹介することを生業としている。
田舎から出てきて「1から教えて下さい!」という新人に、構っている余裕はもはやない。そういう新人は、芸能人やモデル並みにルックスが良くなければ採用されない。採用されても、この不況の中でリピーターを取れる接客ができるのか?
キャリアが無ければ雇わないという店も増えてきている。閉店が増える今、仕事にあぶれているキャバクラ嬢は、掃いて捨てるほどいるのだから。
つい半年前まで高級クラブで働いていたというキャバクラ嬢に出会った。「毎朝、4紙の新聞を読んでいます。お客さんとの会話やメールの内容は日記につけて、下手だけど似顔絵も書いています」。彼女は22歳。同世代に、新聞を4紙も読んでいる若者がどれくらいいるだろうか?
彼女は、以前働いていた高級クラブで接客サービスの何たるかを叩きこまれた。その店も、景気の悪化に耐えられず閉店。紹介を受けて、キャバクラ店で働くことになったという。彼女の常連さんは、50代や60代が中心。大人の遊びを知った紳士たちだ。「孫のような存在なんでしょうか?」とほほ笑みながら話す。たとえ本当の孫でも「誰?このおじいちゃん」なんて顔をされれば、かわいさ余って憎さ百倍だろう。彼女の接客姿勢には、古き良き中洲の伝統が活かされているのだ。
忘年会シーズンを迎え、人の往来が増えている中洲。にわかに活気を取り戻したようだが、「それでも前年より少ないんです」と、とある無料案内所の従業員は苦笑する。客を引き留められない店は、次々に閉店している。量よりも質。失われかけた「中洲ブランド」を取り戻すことが、今の中洲に求められている。
(つづく)
長丘 萬月(ながおか まんげつ)
1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。
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