長く続いた不況に追い打ちをかけたリーマン・ショック。西日本一の歓楽街と謳われた中洲においても、そこかしこで悲鳴が上がっている。値下げ競争、閉店ラッシュ、失業して路頭に迷うキャバクラ嬢。 片や来年4月に施行される条例に伴い、盛んに行われている「暴力団排除運動」。中洲では今、いったい何が起きているのか? 劇的な変化に翻弄される中洲へ、突撃リポートを敢行した。
3,000軒もの飲食店が軒を連ね、西日本一の歓楽街と謳われた中洲。長く続く不況、さらに追い打ちをかけた世界不況の波。中洲はどのような影響を受けたのか?慌ただしい年度末の午後7時過ぎ、中洲をひとり歩いてみる。かつて多くの人が往来し、混雑していた中洲大通り。悪質な客引きの姿は見られず、安心して歩ける雰囲気は好ましいが、行き交う人がまばらで、大手を振って歩けてしまうのは歓楽街として寂しい限り。そこかしこで見かける灯の消えた看板も街の悲哀を物語っている。
そんな状況の中で、店舗数に大きな増減を見せていないのが、風俗店が9割以上を占める中洲1丁目だ。店舗数が減少しているラウンジやスナック、居酒屋といった一般飲食業が中心の中洲2丁目から5丁目までと、異なる様相を呈している。お父さんのお財布事情も厳しい昨今において、性欲処理は別会計なのだろうか?はたまた、好転の兆しが見えない経済情勢に悲観し、死地へ赴く前の最後の思い出作りか?不況とは無縁とも思える営業店舗数を見る限り、男の性欲の凄まじさを感じずにはいられない。だが調べてみると、そんな憶測を覆してしまう実態が見えてきたのである。
「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)」には、風俗店の営業区域に制限が規定されている。中洲では、中洲1丁目及び国体道路沿いの中洲2丁目の一区画が、風俗営業可能区域となる。近年、中洲1丁目にいわゆる風俗ビルが乱立したのも、この法的制限が背景にある。限りある土地を最大限に利用するには、縦方向に店舗数を伸ばすしかない。好況時において、風俗産業に新規参入を図る業者は、営業している店舗の「いつになるか分からない閉店」を待つしかないのだ。
しかし、リーマン・ショックに始まる世界的な大不況が、変化をもたらした。当然、一般飲食業と同様に、風俗業の経営状況も悪化し続けている。現在、中洲風俗へ遊びに行く客の予算は、平均1万円前後。ニーズに応え、店側も料金を下げざるを得ない。今や「激安」を看板にかかげる店が主流だ。そんなデフレの中で、資本力が弱い風俗店は、ばたばたと閉店しているのである。そして、空いたテナントには、強い資本力を持つ新規参入業者の出店が増え始めた。こうした新規参入業者は、東京、名古屋、大阪、札幌等、大都市で実績を積んできた風俗企業が中心である。中洲風俗店の閉店ラッシュに対し、強い資本を持つところは絶好の機会ととらえた。『先行投資の意味』で空いた物件を買い漁り、とりあえず新店を出しているというのが実情だ。
このような状況において心配されるのは、より一層薄まる傾向にある中洲風俗の地元色だ。新規参入業者は、「吉原」、「すすきの」、「福原」といった地元のブランドを主張しているところが多い。これでは、「中洲を市場とした日本風俗物産展」である。選択肢が増えたことを喜ぶ声も少なくはないが、よそから来た業者が幅をきかす一方で、地元の業者が肩身の狭い思いをしているのは寂しい限りだ。また、新たに獲得できる利権を巡り、暴力団の介入が懸念される。県の暴力団排除条例が施行されるのは来年の4月1日。中洲の健全化を図る意味では、今が正念場だと言えよう。
(つづく)
長丘 萬月(ながおか まんげつ)
1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。
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