「英雄色を好む」という言葉がある。歴史上の偉人たちにも浮いた話は多い。ただ、公金を使って酒食に溺れた人物にろくな人間がいないと思うのは、小生だけであろうか。自分の地位を利用して人にたかる。時代劇の悪代官そのものだ。幕末の新選組なら、勝手に金策しただけでも「士道不覚悟、切腹!」である。ところが今は、罪を認めようとしない本人に代わって上司が頭を下げる。土方歳三が上司なら、逆さ吊りにした上、足の裏にロウソクをつき立てて白状させるだろう。
年末においても、高級クラブが接待に使われる回数は減っている。「接待で来たとしても、店で商談を続ける方がほとんどです」。そうした余裕のない接待にクラブ嬢たちは、景気の悪さを改めて実感している。一方で、「自分のお金で飲んでいたお客様は今でも変わらず飲んでいますが、接待交際費や人からおごってもらうという感覚の方は珍しくなりましたよ」とは、高級クラブの経営者。福岡県の中島副知事の振る舞いは、世のお父さんたちの感覚からかなりズレている。
同副知事に限ったことではない。ある高級クラブ嬢は語る。「たまにですが、お忍びでやってくることはありますよ。もちろんVIPルームです。とにかく『自分は偉いんだぞ!』っていう雰囲気で、チップを入れながら女の子の胸を触ったり、ミスをした部下の方の愚痴を言い続けたり。本当にストレスを発散している感じです。そして、帰る時はちゃんと領収書を切るんです」。ちなみに、高級クラブ、キャバクラではお触り厳禁である。商売上、誰がとは決して言わないが、お偉いさんたちの乱暴狼藉を中洲の夜の蝶たちは内心冷ややかな目で見ている。
余談だが、中洲における著名人の話は、枚挙に暇がないほど耳にする。「相撲のこと良く分からないんだけど、『朝なんとか』っていう人に指名されました。とても優しくて"お強い"方でしたよ(笑)」とは、某高級ソープ嬢の話。品格の問題はおいといて、まさに「英雄色を好む」だ。ともかく、著名人の振る舞いはしっかりと見られているのだ。先人たちの色街における武勇伝は、今も語り継がれている。
話を戻そう。来年の4月1日に施行される「福岡県暴力団排除条例」には、「暴力団の威力を利用する目的で暴力団員と取引すること」には罰則、「暴力団に協力する目的で暴力団に利益の供与をすること」には勧告・公表と、事業者側にも厳しい規定が定められている。暴力団と同様に、公金を私する役人も社会悪。今、「公職に就く者が飲食店で接待を受けている場合、通報しなければならない」というルールさえも必要なのではないだろうか。現実問題、嘆かわしいほどに役人のモラルは低下している。
(つづく)
長丘 萬月(ながおか まんげつ)
1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。
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