自分の野菜には自分で値段をつける
八女市・秀興園 溝田典秀さん
そんなジレンマを感じていたときに出会ったのがベビーリーフだった。設備は電照菊栽培を始めたときのもので十分間に合う。溝田さんは、さっそくベビーリーフに取り組んだと言う。収穫までの期間が短いため、1日2日の作業の遅れが命取りになる。天候や気温によっても生長が左右される。経験を積み重ねて、今ではある程度の「読み」ができるようになったという。他の作物との大きな違いは年中収穫できる点にある。
広い敷地に時期を少しずつずらして種を蒔く。すると順々に収穫期となる。収穫後はまた種を蒔く。そのサイクルがきれいにまわると常に新鮮な美味しいベビーリーフができるのだという。
「計画を立てて、それに沿わせること。これは熟練を要する部分だと思います。それにいいものを生産すればよい、というわけではありません。生業としてやっているので経済性も重要です。私は、なんとしてもやり遂げる覚悟でベビーリーフ栽培に臨みました。当時、ビニールハウスなどの設備投資分の返済はすでに終えていたというのも大きな動機になったのかもしれません。期待と不安とが入り混じりましたが、どうやら結果がすぐに出るベビーリーフは性に合うみたいで、15年間続けています」
野菜は、いいもの=おいしいもの=すぐに消費されリピートされる、という点で花とは異なる。いいものをつくれば消費サイクルが早まる。ただ難しいところもある。商品サイクルが早いということは生産がきちんと定期的に行なわれなくてはならないのだ。溝田さんが力を注いできたのはまさにここだ。
農協などを介さずに個人ルートで販売を行なっているため、信用が大切になる。この場合の信用は納期厳守。決められた量を決められた時間に納入すること。これを守ってくることができたため、今まで継続できたのだという。
「信用が何より大事です。それと、嫌とは言わない事。少量の発注がきても笑って受けて、きちんと納入する。この積み重ねが信用につながるのです。そのおかげで営業活動することもなく、自分の作物に自分で値段をつけることができるようになりました」
また、溝田さんは障害者の方とパートナーシップを組み、2名で農園管理を行なっている。障害者だから、健常者だから、という壁はそこにはない。
「障害者福祉の方からご紹介いただき、ともに働くようになりました。まじめで一所懸命に仕事をしてくれているので、貴重な戦力です。当初は接し方などで戸惑うところもありましたが、今では家族のようにも感じております」
溝田さんの農園には笑いが絶えない。笑うことで運を引き寄せているようだ。ベビーリーフの先駆となったのも出会いの運。一歩先を行くか、一歩後からついて行くか。この差が農業での成功にもつながるのかもしれない。
【柳 茂嘉】
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