経済不況の被害を真っ先に受けるのは、言うまでもなく現場で働く労働者。中洲においても例外ではない。華やかドレスで身を飾り、男性に憩いのひとときを与えるラウンジ、クラブで働く若い女性たち。外見からは不景気の微塵も感じさせない夜の蝶にも不況のしわ寄せが及んでいる。(九州では、ラウンジの名称で通っているが、全国的には『キャバレー』と呼ばれる接客サービス業である。以下、キャバクラで記載)
「雇われた時に聞いていた金額と、もらえる給料が違うのは当たり前ですよ」と、愚痴をこぼすのは、現役キャバクラ嬢のA子さん。彼女は、最近働く店を変えた。「客が来ないのはどこの店も同じなのに、ノルマはそのままっておかしくない?」と、前の店を辞めた理由を話す。もちろん、彼女たちなりに営業努力を行っている。開店前の1時間は営業メールタイム。「今じゃ、返信があるだけで喜んじゃう。それでも「都合が悪い」なんていうのがほとんどだけど」。異性の前で良い格好を見せるのが男の性なのだが、「お金が無い」という痛々しい返信メールが届くことも増えてきているという。『同伴』や『アフター』といった言葉が、都市伝説と化す日も近い。
数年にわたり、中洲の飲食店を取材してきたフリーライターのB氏は、今の不況をキャバクラ嬢の取材を通して実感している。「おひさしぶり! はじめまして、○○で~す!」。そんな奇妙な挨拶を交わすことが増えてきたと言うのだ。「1ヵ月前に違う店で取材した女の子が、別の店の新人になっているケースが多いですね。店舗数が減っていることや、テナントの入れ替わりが激しいことを考えればしょうがないのでしょうけど」。『中洲ブランド』は、まだまだ健在なようで、全体的な店舗数は減少傾向にあるものの、空いたテナントに出店を試みる起業家も少なくはない。風俗業界同様に、不況に喘ぐ中洲の実態を知らない地元以外の起業家が多いそうだが、結局はオープンしてすぐに閉店してしまう。「出港から沈みかけている船を見るような心境ですよ。『新規オープン』って聞いても、ああ、またか...、なんて思ってしまう」と、ため息混じりに話すB氏。彼のように悲観的な目で中洲のキャバクラを捉えるマスメディアは多い。
一方で、経営者側は少しでも稼ぎの良い人材を求めている。そして、閉店が相次ぐ今、キャバクラ業界においても労働者の供給過多状態。熾烈なスカウト合戦が始まっている。「同じテナントビルに入っている店同士で、女の子の取り合いをしてトラブルになったって話もありました。稼ぎが悪いとすぐ解雇。失業したキャバクラ嬢が風俗業界に流れているっていう噂もよく聞きますね」と、B氏は言う。「昔、同じ店で働いていた子がいろんな店にいるから、どこの店がマシかってすぐに分かっちゃう。ダメな店に限って、女の子に厳しいノルマや細かい罰金を与えるとこが多いんですよ」とは、前出のA子さん。働く側も必死に店を選んでいる。
(つづく)
長丘 萬月(ながおか まんげつ)
1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。
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