オバマ大統領が上院議員時代に自ら運転していたと言われるトヨタのプリウス。アメリカ人の間でもその安全性が高く評価され、圧倒的な人気と信頼を誇っていたトヨタの車に想定外の危機が降りかかってきた。アメリカでトヨタの車の安全性を根底から揺るがすような大きな事故が相次いで発生したからである。
2009年8月、カリフォルニアで一家4人が亡くなるレクサスの暴走事故が起きた。車のアクセルペダルが床のマットに引っかかり、踏み込んだままの状態になったのが原因とされている。暴走中の車から携帯電話で助けを求める悲痛な叫び声が公開され、アメリカのメディアが大々的に取り上げたこともあり、アメリカ運輸省も事態を重くとらえ、車両に致命的な欠陥があったとの可能性を示唆してきた。
似たような事故が他にも発生したため、トヨタでは2009年11月25日、事故を起こしたレクサスだけでなく、カムリやプリウスなど8車種、計426万台を対象にアクセルペダル交換などの自主的な改善措置を取る決断を下した。回収費用には数100億円かかると見られるが、トヨタの幹部に言わせれば「リコールなどに備えた引当金が5,000億円近くあるので、業績に大きな影響はない」とのこと。
また、「自動車そのものに欠陥はない」との強気の姿勢を貫いている。トヨタにすれば、「車を運転する人がマットを床にきちんと装着していれば、事故は防げた」という見解であろう。しかし、誰の責任であれ、事故が発生し犠牲者が出ているのは事実である。これまでトヨタをはじめ日本車がアメリカ市場で大きくシェアーを伸ばした背景には品質への高い信頼があったためであるが、この信頼が揺らいだことは否めない。
アメリカの「ウォールストリート・ジャーナル」や「ブルームバーグ」など主要メディアはこぞってトヨタに対する厳しい見方を表明。曰く「トヨタの看板であった高品質が地に落ちた」。実はアメリカでは2009年10月、フォード自動車が今回のトヨタのリコールを上回る450万台の車を対象にしたナビゲーションのスイッチ不良から火災が起きるという、遙かに深刻な欠陥に直面していた。ところがフォード自動車の大問題はトヨタのリコール報道の影に隠れ、ほとんど表に出ることがなかった。
【浜田 和幸(はまだ かずゆき)略歴】
国際未来科学研究所代表。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。
ベストセラー『ヘッジファンド』(文春新書)、『快人エジソン』(日本経済新聞社)、『たかられる大国・日本』(祥伝社)をはじめ著書多数。最新刊は『ノーベル平和賞の虚構』(宝島社)。近刊には『オバマの仮面を剥ぐ』(光文社)、『食糧争奪戦争』(学研新書)、『石油の支配者』(文春新書)、『ウォーター・マネー:水資源大国・日本の逆襲』(光文社)、『国力会議:保守の底力が日本を一流にする』(祥伝社)、『北京五輪に群がる赤いハゲタカの罠』(祥伝社)、『団塊世代のアンチエイジング:平均寿命150歳時代の到来』(光文社)など。
なお、『大恐慌以後の世界』(光文社)、『通貨バトルロワイアル』(集英社)、『未来ビジネスを読む』(光文社)は韓国、中国でもベストセラーとなった。『ウォーター・マネー:石油から水へ世界覇権戦争』(光文社)は台湾、中国でも注目を集めた。
テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍中。「サンデー・スクランブル」「スーパーJチャンネル」「たけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「みのもんたの朝ズバ!」(TBS)「とくダネ!」(フジテレビ)「ミヤネ屋」(日本テレビ)など。また、ニッポン放送「テリー伊藤の乗ってけラジオ」、文化放送「竹村健一の世相」や「ラジオパンチ」にも頻繁に登場。山陰放送では毎週、月曜朝9時15分から「浜田和幸の世界情報探検隊」を放送中。
その他、国連大学ミレニアム・プロジェクト委員、エネルギー問題研究会・研究委員、日本バイオベンチャー推進協会理事兼監査役、日本戦略研究フォーラム政策提言委員、国際情勢研究会座長等を務める。
また、未来研究の第一人者として、政府機関、経済団体、地方公共団体等の長期ビジョン作りにコンサルタントとして関与している。
【最新刊】
*記事へのご意見はこちら