1994年の創設以来、中高年の知識、人脈、情報網を生かす人材活用システムとして注目され、それなりの成果を上げてきたのがオリックスの営業推進役制度。金融機関をはじめとするしかるべき企業でキャリアを積んだ50歳以上を対象に、営業基盤の拡大、維持の人材として契約する仕組みだが、それも有名無実化しつつあるのは同社の行方を見るようだ。
<制度改定を機に退職者続出>
4兆円とも5兆円ともいわれる借入金で資金繰りが危惧されるうえ、日本郵政の「かんぽの宿」売却に絡む不透明性でも敵役にされるなど、このところのオリックスを見る世間の目は厳しい。その同社から多数の営業推進役が辞めている。
「今年4月からの営業推進役制度改定の事前説明会には、東京周辺の人は本社会議室に、地方の人はそれぞれの支店からテレビ会議方式で、全国合わせて200人以上の営業推進役が出席していたと思います。会社側の説明が終わった後、大阪の出席者が『要は我々に辞めろということですか』とみんなが一様に抱いた思いを口にしたところ、営業推進部長、課長、人事担当者ともに押し黙ったままでした」(出席した元営業推進役A氏)。
オリックスの「営業推進役」(以下、推進役)はその名が示す通り、リース業から出発して金融から不動産まで多角的な事業展開をしてきた同社が、それぞれの分野における顧客拡大を図って導入した独自のシステムだ。同制度に関する詳細はとくに公表していないが、2006年の同社関連資料によれば、「入社前は金融機関の支店長やメーカーの事業本部長など、各業界の第一線で活躍された人材」で「各人が築いてきた人脈や経験は、オリックスに新たな営業機会をもたらしています」という。そして、同時点での推進役は全国で約350人。05年には、函館で地元信金OBの推進役が支店長に昇格したケースもあるそうだ。
その推進役が制度改定を機に「100人以上が辞めて、今残っているのは100人もいないんじゃないですか」(A氏)という。理由は制度改定によるノルマの大幅強化だ。オリックスによれば、「制度自体に大幅な変更はありません」(同社広報部)というが、問題は成果に対する評価の査定だ。
公表されていない待遇や身分について、「基本は年間契約で、年俸400~500万円。2,000万円以上の契約を確保、維持すれば契約更新されるので定年もない。金融からメーカーまで一流企業の退職者が多く、まだ完全に引退したくないという人には好都合でした。辞めたのは制度改定で、今まで通りにやっていたらノルマを達成できる見込みがなくなったからです」というのは別の元推進役B氏。
同氏によれば、年間総額2,000万円のノルマは1,800万円に緩和された。ところが、営業する各商品ごとに細かく決められた評価額が、大幅に切り下げられたという。たとえばオートリース部門で従来は1台45万円で計算されたトラックが10万円に、リース車メンテナンス1台5万円が1万円に大幅ダウンした。「総額をちょっぴり下げても、カウントされるベースの単価が5分の1になったんじゃ何の意味もありません」(B氏)というわけである。これでは契約更新を希望する気にもならず、説明会で「辞めろということか」という質問が出るのも当然だろう。
(つづく)
恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。
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