<制度の変更と運用の問題 同社の深刻な現状>
しかも制度改定で新たな問題も発生した。改定は新年度の4月からだが、営業推進役の契約は4月と10月の2通り。昨年10月に更新ないしは新規契約した推進役は、今年9月までは従来の制度で評価されるはずだ。ところが4月以降は改定後の制度が適用された結果、成果の評価が大幅にダウンし、1,800万円に届かない推進役は自動的に契約解除されたという。すなわち従来制度なら2,000万円のノルマをクリアし、改定後の厳しい制度下でも継続したいと希望しても受け付けられないことになる。
オリックスが同制度を導入したのは、バブル崩壊後の94(H6)年。米クリントン政権による金融、IT戦略で日本の産業界もスリム化を余儀なくされ、人材が溢れるのを見越していたとすればまさに先見の明だが、「名称はそれなりでも、基本的には生保のおばさんと同じ。家族や親戚縁者ら身内から始まって、友人、知人とひとわたりセールス。さらに、新規開拓してノルマを達成できなければ終わりです」(A氏)。とはいえ、中途でのルール変更は、まともな会社ならあり得ない。
新制度適用で9月に辞めざるを得なくなったC氏のケースは、さらに深刻かつオリックスの現状を映し出している。それというのも、契約解除に当たってC氏が納得できないのが、評価の仕方はもとより会社の対応だ。C氏は、自分にカウントされるべき成果が若い社員に横取りされているのをデータで担当部門の管理職に示し、評価の仕直しを要求しても認められず、契約解除になった。
「推進役の仕事はオリックスが手がけるあらゆる分野におよびますが、環境エネルギー部の産廃処理事業で私が4~5年前に開拓したさる企業グループがあります。本社の下に全国に販社があり、それぞれの販社毎に契約することになりました。私自身が直接やったケースもありますが、環境エネルギー部の若い社員や途中からは系列のオリックス環境も加わって、各販社との契約が次々に成立しました。ところが社員が自分で開拓、成約したとする案件の相当数が、私の紹介、口添えです。それを正当に評価すれば、ここ数年の積算でたとえ今年4月以降の制度改定を適用しても、ノルマをクリアできています」(C氏)。
推進役制度の特色として、年間2,000万円以上というノルマを数年分まとめて達成するのも認められていたことが挙げられる。たとえば初年に1億円の契約を取れば、5年間は何もしなくとも年俸が保証される仕組み。契約解除されたC氏が過去の評価にこだわるのも当然だろう。しかし、数字の世界でも評価は微妙なもの。詳細は当事者双方の主張を精査するしかないが、気になるのは推進役制度の変更とその運用の仕方だ。ノルマを大幅に強化したうえ、契約中途でもルールを変更するのはどういうことか。
<SFCGを思わせる内情>
同社はこのところ、全国に所有するマンションを何百棟も売りに出したり、不良債権の処理を加速させている。内情に詳しい関係者によれば、不動産部門では家賃滞納者の追い出しで刑事事件になりそうになった問題社員がいた支社を閉鎖したり、メインのファイナンス部門では上司が融資先と示し合わせ、通常なら融資不適格になるのを部下に命じて書類を改ざんして通す、といった不祥事がここ数年目立つという。
90年代から竹中平蔵氏とともに規制緩和派の代表として政府や経済界の各種委員会や要職に就き、事業拡大を図ってきた宮内義彦CEO率いる同社の内情は、ガバナンス(統治)もコンプライアンス(法令順守)もなく末期を迎えた、同じ金融業のSFCGを思わせる。制度改定で顕在化した軋みは、もはや同社がなりふり構っていられない状況にあるということだろう。
(了)
恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。
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