~大分県立芸術文化短期大学 教授 下川 正晴 氏
<「中国の浮上」と米国>
アメリカ・オバマ大統領が11月、日本、シンガポール、中国、韓国の順に6泊7日のアジア歴訪を行なった。オバマ大統領は中国訪問中、できる限り中国政府を刺激しないよう努力した。中国は米国にとって最大の債権国でもあるからだ。中国は米国と並ぶ世界の主要2カ国として、米国がアジアで行使してきた絶対的な覇権国としての地位に挑戦状を突きつけるかのように映っている。
韓国の李明博大統領とオバマ大統領は11月19日、ソウルの大統領府で米韓首脳会談を行なった。両首脳は「韓米は最高の関係を維持している」との点で一致した。
両首脳は最近10カ月間に3回の首脳会談を行ない、お互いを「親しい友人」と呼び合っている。米紙ニューヨーク・タイムズは「そのうち韓国での滞在時間は21時間と最も短かったが、逆に最もリラックスできた」と報じた。韓国は日本や中国よりも好意的だったし、両首脳が北朝鮮の核問題などで協力を誓いあったからだという。
両首脳は今回の会談で「中国の浮上」と「日米同盟の変化」についても意見を交換した。日米同盟は米韓同盟とも直結しており、日米関係の変化から始まった流れは、直ちに米韓同盟の周辺へと影響が及ぶからだ。中国は北朝鮮の唯一の後見国であり、朝鮮半島問題にも直接の利害関係がある。
中国が米国や北東アジア、さらには世界で米国との主導権争いに乗り出すようなことになれば、国際情勢と安全保障環境の枠組みそのものにも大きく影響を及ぼすようになるのだろう。
李大統領とオバマ大統領は米韓自由貿易協定(FTA)の議会での批准問題について、最も多くの時間割いて話し合ったが、今回も明確な結論を引き出すことはできなかった。米国側が批准のスケジュールを提示できなかったからだ。米韓間のFTA協定は07年3月に署名されたが、2年半以上にわたり米議会での批准手続きが行なわれていない。
<「少子高齢化」の日韓>
「視界不良」の未来の姿は、日韓両国に共通のものだ。韓国は少子高齢化の沼にはまりこんだ日本のあとを、宿命のように追いかけている。
李明博政権は07年、公約の7大外交ドクトリンでアジア外交強化を約束した。経済危機を経て、国際秩序の枠がアジアに拡大したことも事実だ。鳩山首相も東アジア共同体構想を打ち出した。
日米同盟が日本外交の基軸という点では、前政権と変わらない。この関係をより緊密にする、という意味で、同じく米国と同盟関係にある韓国との関係も重要だ。
日本は世界で最も早く少子化と高齢化が進んでいる国だ。日本のように、人口減少と高齢化が並行する現象を他の国は経験したことがない。そうした意味で、日本はフロントランナーといえる。これは韓国にとって「手本」となる。
韓国の合計特殊出生率は日本より低い。それゆえ、高齢化のスピードも速い。韓国の潜在成長力を脅かす最も深刻な問題なのだ。
【下川 正晴(しもかわ・まさはる)氏】
元毎日新聞ソウル支局長。現在、大分県立芸術文化短期大学教授(マスメディア論、現代韓国論)。
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