放送作家にして脚本家。自らが代表取締役社長を務める会社の受付は「オレンジのバイテン」というパン屋さん。歴史あるホテルの顧問、交通安全運動の発起人、カレー店のプロデューサー、そして、大学の学科長兼教授…ジャンルという言葉を全く感じさせない小山氏の活躍の場には、常に「みんなが感動する、みんながハッピーになる」ための種が蒔かれている。無限の広がりを見せる小山氏の企画力や発想力は、一体どこから来るのか。パン屋の入口をくぐり、左手にある隠し扉が開く。そこは、居心地の良さそうな応接室になっていた。
<映画に注力した2009年>
―2009年、小山さんにとってどのような1年でしたか。
小山 やはり『おくりびと』(滝田洋二郎監督作品)を書いたことが大きくて、先日公開された『スノープリンス』とあわせて、映画に熱意を注いだ1年ではありました。
―そもそも、『おくりびと』の脚本を手がけることになったきっかけは何だったのですか。
小山 最初は、非常に重たいテーマなので、最初から「絶対に公開したい」という気もなかったと思うんですね。青木新門さんの『納棺夫日記』を読んで感銘を受けた主演の本木雅弘さんがずっと、「やりたいけれども形にならない」ということがあって。それを先日残念ながらお亡くなりなられた、本木さんの事務所の小口健二社長から「やってみませんか」とお話をいただいたことがきっかけですね。
最初はそのまま『納棺夫日記』として脚本を書いたんです。あの本は、モチーフにはなっても物語性はないですし、モチーフとして使ってもいいかということについては許可も出ていました。そこで、いろいろとエピソードを加えて書いたのですが、宗教観や舞台の相違があったようで、なかなか映画化が許されなかった。その時に小口社長が、「俺はこっちの方が絶対に面白いと思うから、これをやりたいんだ」と戦ってくれまして、それで結局最後はもう一度書き直し、タイトルも新たに『おくりびと』として、今のかたちが出来上がって世に出たんです。そのあとも、いろいろとあったんですが、とりあえずはいい結果になった、というところでしょうか。
―ターゲットを広げて観せなければいけないテレビ番組と、対価を払って観に来ていただく映画とでは、アプローチや意識が違うと思うのですが。
小山 細かいことを言えば、違いはたくさんありますが、やはりテレビは「いかに飽きさせない工夫をするか」ということが大変で、視聴者にチャンネルをキープさせることにモチベーションを注いだりします。しかし映画の場合は、「まずしっかり見てもらえている」というところが大きな違いですね。
『おくりびと』の場合は、仕上がりは非常に良いとは思ったのですが、最初のころは「こういうテーマの映画、観に来るのかな…」という不安もありました。宣伝文句を作るのもなかなか難しくて、舞台挨拶のときも、「みなさん、とりあえず見て面白かったら人に薦めてください」っていう話をするしかなくて。ですから、最終的に高い評価をいただけたのも、作ったもののクォリティも当然ですが、宣伝をする人の力というのも、映画では大きいなと思いました。
―各地の互助会の方々の支援もあったようですね。
小山 ええ、広告代理店さんが全国各地の互助会に呼びかけをしたようでして、支えてくださるところが徐々に増えていったんですよね。
偶然、僕の同級生の実家が葬儀社をやっていまして、そいつのお兄さんから「葬儀連盟の若い人を集めるので講演をやってほしい」と依頼を受けたんです。確か07年のことですね。当時はすでに『おくりびと』の脚本に着手していましたので、「急に葬儀関係の話ばかりだなぁ…」と思いながらお受けしまして、それでその時に、「今度こういう映画をやりますので是非応援してください」という話をしたんですね。そのあとに、各地区の、葬儀連盟の若い人たちが、いろいろと応援してくれたということもありました。
【聞き手、文・構成:烏丸 哲人】
<プロフィール>小山薫堂【こやま・くんどう】氏
1964年、熊本県天草市(旧・本渡市)生まれ。放送作家、脚本家。N35Inc.代表、(株)オレンジ・アンド・パートナーズ代表取締役社長。『カノッサの屈辱』、『料理の鉄人』、『ニューデザインパラダイス』(フジテレビ)、『世界遺産』(TBS)など、斬新なテレビ番組を多く手掛けるほか、ラジオパーソナリティや金谷ホテル(栃木県日光市)顧問を務めるなど活動は多岐にわたる。著書に、『もったいない主義〜不景気だからアイデアが湧いてくる』、『考えないヒント〜アイデアはこうして生まれる』(以上、幻冬舎新書)、『人を喜ばせるということ〜だからサプライズがやめられない』(中公新書ラクレ)、『明日を変える近道』(PHP研究所)、『おくりびとオリジナルシナリオ』(小学館文庫)、『人生食堂100軒』(プレジデント社)ほか多数。初の映画脚本作『おくりびと』が第60回読売文学賞戯曲・シナリオ部門賞、第81回米アカデミー賞外国語部門賞獲得はじめ、国内外で評価を受ける。09年4月より東北芸術工科大学デザイン工学部企画構想学科長に就任し、教鞭を取る。
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