1年前から戦略設定
8日、新栄住宅(本社・福岡市中央区)の09年9月期の決算発表会があった。「純売上125億円、当期純損失33億6,600万円」という数字が提示された。経緯を知らない者がこの数字を目にしたら「売上の25%以上の赤字を出したから大ごとになる。シンエイもヤバイぞ」と騒ぎたてるだろう。ところが心配ご無用。同社の経営陣は、1年前からV字回復戦略の布石を着々と打ってきたのである。そのシナリオが描けたのも、同社の純資産(旧・自己資本)が79億円あったからだ。09年9月期においてもなお45億8,000万円残っている。
1年前のことであり、読者の頭の中にも鮮明に記憶されていることだと思う。新栄住宅がTVに、新聞チラシに、大胆に「400万円のキャッシュバック」と広告を打っていた。これをみて「シンエイはアイランドタワーの売れ残りを抱えて苦戦をしているのだな」と誰もが疑念を抱いたのである。しかし、そうではなかった。同社の経営陣は「在庫を一気に売り切り、マンション事業偏重の経営を是正しよう」と戦略決定をしたのである。「激変時代には己が激変してこそ淘汰から逃れられる」という英断・行動に踏み切ったのだ。
アイランドタワースカイクラブの在庫はあと1割
世間は確かに声をひそめて「シンエイさんはアイランドで苦労をしている」と噂していた。3年前、木庭社長は「コダマさん!!今後、同業者が安売り戦争に走る。このダンピング戦争に巻き込まれない為に、我が社はアイランドでじっくりと400戸を売っていく」という見通しを語ってくれた。ある意味では木庭社長の読みに沿って、アイランドタワースカイクラブの在庫売りに時間をかけていく選択もあった。だが、経営陣は『激変の行動』に活路を見いだす選択をしたのだ。前述のキャッシュバック方式は既存の在庫処分に活用したに過ぎない。アイランドでこの手を使わなかったのは、タワーのブランドを毀損するからだ。その代りに本来はカーテン、照明器具など購入者が負担するものを、会社側の負担とした。形を変えた値引きである。
08年9月期あたりから、営業マンもたくさん採用し、在庫一掃の販売に総力を挙げた。その結果、2009年12月末の未契約総数は55戸になった。内訳はアイランドタワースカイクラブが44戸(総販売戸数=S戸とする、409戸)、アンピール箱崎10戸(S戸109戸)、アンピール大宰府1戸(S戸66戸)。09年9月期においては89戸の在庫が12月末で55戸になった。ということは、3ケ月で34戸販売したことになる。凄まじい販売展開をした結果であろう。アイランドの44戸の在庫には億ションが18戸残っているようだが、あと1割の在庫になったのである。
同社の凄みを一つ紹介しておこう。在庫処理の峠を超えたと見るや、営業マン、従業員の希望退職を募ったことである。現在、新栄住宅本体の従業員の数は35名になっているが、正社員28名が退職したという。充分な退職金も支払ったようだ。今後の分譲戸数体制を400戸から150~200戸体制へ縮小するということで説得したのである。最大の話題は同社の営業戦線の旗振りを行ってきた責任者である大神取締役が退社・独立したことだ。このように何事につけても同社の動きは戦略に裏付けられており且つ迅速なのだ(続く)。
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