<自分を変える装置を、街のなかに作っておく>
―著書を読んだり、こうしてお話を伺っていて思うのですが…小山さんは、怒ることってあるんですか?
小山 それはありますよ。もう、しょっちゅうです。 最近、学生や部下に対して怒ることが多いのは、仕事や課題が、一生懸命にやった結果、できないのは仕方がない、でも、やらずに終わらせてしまうようなことです。今、せっかくチャンスがたくさんあるのに、これを見逃してちゃもったいないだろう!ってことで怒りますね。できないのは、その人の才能だったり、その人に合っていないだけだったりするかもしれません。しかし、何もやらずに「できなかった」というのは、あまりにもったいないなぁと思います。そういうときには怒りますよ。
ただ、私が発起人になって手がけている『東京スマートドライバー』(https://www.smartdriver.jp/)という、コミュニケーションの力で首都高速の事故を減らす市民主体型の交通安全プロジェクトがありまして、そのなかで『ホメドライブ』という試みをやっているんです。これを手がけて、「褒める」ということがすごく大切なんだなぁということにも気づきました。
結局、イライラしたり怒ったりすると、自分が一番損なんですよね。無理に割り込まれても、以前だったらイライラして思わずアクセルを踏んだりするようなこともあったかもしれませんが、さっと入れてあげたことによって、その車がハザードを出したらすごく嬉しいじゃないですか。「どうぞどうぞ、入ってください」、と。僕のなかでは、首都高速を「自分の怒りを静める装置」のような機能と位置づけています。地上で、イライラしたり怒ったりしていても、首都高に乗ったら「ああそうだ、ホメドライブしなきゃいけないんだ、そういえば最近、俺、怒ってたなぁ…」と言いながらまた下界(一般道)に降りていく。そういう、自分を変える装置を街のなかに作っておくといいと思うんです。「歩道橋をわたるときは、必ずこのことを考えよう」と自分に課題を出しておくことでもいいですし。
―日々を楽しく生活するために、そういう考え方ができるのは結構大きいですよね。
小山 そうすれば自然と、自分のなかのどこかにあった、いい「気」のようなものが、自分の全体に満ち溢れてくるように思うんですね。自分のすべてを、急に聖人君子のように変えようと思っても絶対に無理じゃないですか。だから、一部分だけでも、自分のなかの何かを変えていくことが大切なんだと思います。
【聞き手、文・構成:烏丸 哲人】
<プロフィール>小山薫堂【こやま・くんどう】氏
1964年、熊本県天草市(旧・本渡市)生まれ。放送作家、脚本家。N35Inc.代表、(株)オレンジ・アンド・パートナーズ代表取締役社長。『カノッサの屈辱』、『料理の鉄人』、『ニューデザインパラダイス』(フジテレビ)、『世界遺産』(TBS)など、斬新なテレビ番組を多く手掛けるほか、ラジオパーソナリティや金谷ホテル(栃木県日光市)顧問を務めるなど活動は多岐にわたる。著書に、『もったいない主義〜不景気だからアイデアが湧いてくる』、『考えないヒント〜アイデアはこうして生まれる』(以上、幻冬舎新書)、『人を喜ばせるということ〜だからサプライズがやめられない』(中公新書ラクレ)、『明日を変える近道』(PHP研究所)、『おくりびとオリジナルシナリオ』(小学館文庫)、『人生食堂100軒』(プレジデント社)ほか多数。初の映画脚本作『おくりびと』が第60回読売文学賞戯曲・シナリオ部門賞、第81回米アカデミー賞外国語部門賞獲得はじめ、国内外で評価を受ける。09年4月より東北芸術工科大学デザイン工学部企画構想学科長に就任し、教鞭を取る。
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら