<企画=サービス=思いやり>
―小山さんの発想や企画の根幹には、必ず「人を喜ばせる、感動させる」ということが潜んでいますよね。
小山 例えば、僕は「プレゼントマニア」です。いろいろな物、商品を見るときに、もちろん自分が欲しいという目線もあるんですが「あの人が手にしたら喜ぶだろうな」という目線が常にあるんですね。昨日は箱根にいたのですが、お店に2,100円の耳かきが置いてありました。耳かきにしては少々高いですが、手に取ってみると、ものすごくしっくりくる。今日このあと、音楽プロデューサーの松任谷正隆さんとお会いするので、「あ、これは松任谷さんが喜びそうだなぁ、これはあの人をギャフンと言わせなきゃ」と思い、渡したときの顔を思い浮かべながら買ったんです。だから、みんながそういう人になるといいなと思いますし、そう思ってもらえるような人になると、毎日がずっと楽しくなりますよね。
―そういう意識の発展型が、実際にサービス業などの方々に、これからより一層求められることなのかもしれません。
小山 そうです。僕はいつも、企画はサービスで、サービスは「思いやり」だと言っています。どんな仕事でも「企画=サービス=思いやり」は必要じゃないですか。例えば、ネジを作っているだけの仕事でも、じゃあそのネジを運ぶ人がどうやったら楽しく運べるだろうか…と考えることもひとつの企画でありサービスです。自分の仕事に、世のなかの「徳」をどう考え出せるか。自分が儲かることだけじゃなくて、これで何人の人を感動させられるか、喜ばせられるか、と考える。そういうのは大きいですよね。
そういえば、うち((株)オレンジ・アンド・パートナーズ)に入社したくて採用に応募してきたんだけど、書類審査で落ちて入れなかった男の子がいたんです。彼はその後、ある放送局に入社したあと、「僕はオレンジ・アンド・パートナーズで働きたかったのですが、結果、テレビ局に入ってしまいました。でも僕は3年後にどうしてもこちらで働きたいので、もう一度受けさせてください。3年間、テレビ局で修行してきます。2カ月に1度ぐらい、連絡を取らせてもらってもいいでしょうか」と挨拶に来たんですね。それからは2カ月に1回ちゃんとメールが来るし、ランチタイムをご一緒させていただけませんか、と、とても積極的でした。
彼は今、あるテレビ局のCMスポット部のようなところにいまして、CMのスポットをどの順番で放送するかという、時間の枠にはめこんでいくだけの、放送局では何の楽しみもない仕事です。でも、「自分がつまらないと思って仕事をしてもつまらないままですから、この仕事がどうやったら面白くなるかということを僕はいつも考えています」と言って、自分なりにいろいろと工夫をしているようです。例えば、絢香と水嶋ヒロがつき合っているというニュースを見たら、水嶋ヒロが出そうな番組やニュース会見とかのあとに絢香のスポットを入れるとか、他の人は誰も気付かないかもしれませんけど(笑)。でも、気付く人はそこで「おお!」ってなるわけですよね。「そうやって考えていたら、ちょっと楽しいんですよ、この仕事」という言葉を聞いた時に、「絶対、3年後に採ってやろう」と思いました。
本当に、ちょっとしたこと、ちょっとした意識や考え方だけだと思うんです。それだけで、人間は少しずつ変わっていくものなんだと思います。
―では最後に、2010年のお仕事の見通しや抱負などをお聞かせいただければ。
小山 ある方と今一緒に仕事をしたいと思っていまして、その人を口説きにかかっているところです。それが誰かはまだいえないのですが、2010年の大きな目標です。もし何か、ニュースとかで見かけたら「ああ、この人を口説いてたんだ…」と思っていただけたら幸いです。
【聞き手、文・構成:烏丸 哲人】
<プロフィール>小山薫堂【こやま・くんどう】氏
1964年、熊本県天草市(旧・本渡市)生まれ。放送作家、脚本家。N35Inc.代表、(株)オレンジ・アンド・パートナーズ代表取締役社長。『カノッサの屈辱』、『料理の鉄人』、『ニューデザインパラダイス』(フジテレビ)、『世界遺産』(TBS)など、斬新なテレビ番組を多く手掛けるほか、ラジオパーソナリティや金谷ホテル(栃木県日光市)顧問を務めるなど活動は多岐にわたる。著書に、『もったいない主義〜不景気だからアイデアが湧いてくる』、『考えないヒント〜アイデアはこうして生まれる』(以上、幻冬舎新書)、『人を喜ばせるということ〜だからサプライズがやめられない』(中公新書ラクレ)、『明日を変える近道』(PHP研究所)、『おくりびとオリジナルシナリオ』(小学館文庫)、『人生食堂100軒』(プレジデント社)ほか多数。初の映画脚本作『おくりびと』が第60回読売文学賞戯曲・シナリオ部門賞、第81回米アカデミー賞外国語部門賞獲得はじめ、国内外で評価を受ける。09年4月より東北芸術工科大学デザイン工学部企画構想学科長に就任し、教鞭を取る。
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