かねてより問題山積の外国人技術研修・実習制度が、今年7月から新しい仕組みに変わる。より実態に近づけつつ、研修・実習生の保護を強化するが、はたして問題解決になるかどうか。前提として研修・実習生を受け入れる協同組合、それを管理監督する諸官庁の体質も変わらねば意味がない。昨年起きたさる組合内騒動と内部告発への関係省庁の対応を注視する必要がある。
<制度悪用する理事長の存在>
法務、外務、経産、厚労、農水など各省庁が関わる外国人技術研修・実習制度は、本誌でも以前リポートしたが中小、零細企業にはきわめて身近な存在だ。発展途上国に日本の技術を習得してもらうというのが当初目的だったが、近年は「安価な労働力」の確保手段として幅広く利用されてきたからだ。その結果、賃金未払いや苛酷労働への不満から雇用主と研修・実習生、さらに研修・実習生同士などでトラブルが続出。暴力から殺人、脱走までさまざまな事件が多発。「奴隷労働」、「人身売買」などといわれる実態が国会やメディアで論じられ、問題の深刻さが広く知られるようになった結果が今回の制度改正である。
同制度は最初の1年が技能の研修、2年目と3年目が実習生として受け入れ企業と雇用関係を結んで働いてもらう仕組み。1年目はあくまでも「研修」であり、手当はあっても残業は禁止。2、3年目が従業員として残業もOKというかたちで、トータル3年間滞在できる。しかし、実態は1年目から通常の労働者として残業するのが当たり前であり、研修生もそれを望んでいる。「魚心あれば水心で、こちらは労働力、研修・実習生はカネが目的なので、そこは互いに一致している」(受け入れ企業)からだ。
したがって、双方がその共通認識のもとに制度をうまく活用しているなら問題は起こらない。しかし、企業側が研修生らを「いかに安く使うか」に腐心するのと同様、研修・実習生は「いかに稼ぐか」を目的にしている結果、両者間でさまざまな問題が発生する。典型が残業代のピンハネだ。1時間350~400円の低賃金に加え、さらにそのトータル時間をごまかしたりする企業が絶えない。研修・実習生はより多く稼ぐために残業を求めるが、それを超えた苛酷、長時間労働がトラブルのタネになることも多い。
同制度は、先の各省庁が所管する財団法人・国際研修協力機構(JITCO)が元締めとなり、全国各種の事業協同組合が傘下の組合員企業の要請に応じて、必要な数の研修・実習生の受け入れ窓口になる仕組み。業種は50種以上あり、単一業種もあれば多業種にわたる組合もある。さらに一定地域に限定された組合もあれば、複数都道府県にまたがる広域組合もある。
受け入れ機関としての組合は、研修・実習生を送る相手国の送り出し機関に要請して必要な人員を送ってもらうが、全体の8割が中国。50種以上ある業種のうち縫製業が全体の2割強を占めるため、中国人女性が圧倒的に多い。その結果、各種トラブルも一方の当事者は中国人女性、他方が雇い主たる企業またはその所属組合という構図がほとんどだ。雇い主に零細企業が多いためもあれば、組合が彼女たちに支払う給料を企業側からいったん組合に納めさせ、そこでピンハネして渡すという悪質な組合も少なくないからだ。
「カネの問題だけでなく、若い女性も多いので彼女らを愛人にするバカな雇い主もいる。しかし、一番の問題は組合のウマ味を知ってそれを悪用する理事長がいること。理事長が一部理事と結託したり、組合事務局員を抱き込めばやりたい放題。あおりを食うのは真面目な組合員や研修・実習生ですが、実態はなかなか表に出ない」(同制度を利用した縫製業者)。
(つづく)
恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。
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