1964年以降、歴代のアメリカ政権は貧困層への支援という名目で数兆ドルを超える多額の公的資金を投入してきた。にもかかわらず、現在の情勢を見ると、政府による社会福祉事業がことごとく失敗したと結論せざるを得ない。
特にアフリカ系アメリカ人やヒスパニックなど少数派や移民の多い地域においては、深刻な事態が改善しないままである。いわば、「貧困の文化」と呼べる風潮が根付いてしまったと言えそうだ。「鶏が先か卵が先か」の議論ではないが、福祉政策の恩恵を受けるためには、離婚や家族崩壊が当たり前となってしまった観すらある。アメリカでは手っ取り早く金持ちになるには、「黒人、未婚の母、無職」の3条件をクリアーすれば良いと言われるほど。人心荒廃も甚だしいといえよう。
2008年アメリカでは個人破たんが前年比で32%も増加し、141万件に達した。中でもワースト3に入るアリゾナ州では77%、ワイオミング州では60%、そしてネバダ州とカリフォルニア州では58%もの増加が記録された。一昨年以来のサブプライムローンの破たんの影響も依然として尾を引いている。不動産価格は値下がりを続け、当初のもくろみとは裏腹にローンの返済に窮する人々が一向に後を絶たない。
それどころか、プライムローンと呼ばれる安定した収入があるはずの人々の間でも、失業や景気の悪化の影響でローンの支払が滞り、自己破たんや住まいを差し押さえられるケースが増え始めている。富裕層が多いといわれるフロリダやテキサスでもローン破たんや金融機関の倒産が目立つようになった。
オバマ大統領は応急措置としてウォールストリートの金融機関には手厚い支援を施したものの、各地を覆う個人破たんの救済にはほぼ無策状態を続けている。そのため、来たるべき中間選挙では民主党の敗北は避けられないとの観測がもっぱらである。もちろん、オバマ大統領自身の人気も急落を続けており、2010年早々の世論調査では47%という危険水域に突入。お題目の「チェンジ」は悪い方向への変化になってしまい、本人のチェンジも時間の問題となってきた。
【浜田 和幸(はまだ かずゆき)略歴】
国際未来科学研究所代表。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。
ベストセラー『ヘッジファンド』(文春新書)、『快人エジソン』(日本経済新聞社)、『たかられる大国・日本』(祥伝社)をはじめ著書多数。最新刊は『ノーベル平和賞の虚構』(宝島社)。近刊には『オバマの仮面を剥ぐ』(光文社)、『食糧争奪戦争』(学研新書)、『石油の支配者』(文春新書)、『ウォーター・マネー:水資源大国・日本の逆襲』(光文社)、『国力会議:保守の底力が日本を一流にする』(祥伝社)、『北京五輪に群がる赤いハゲタカの罠』(祥伝社)、『団塊世代のアンチエイジング:平均寿命150歳時代の到来』(光文社)など。
なお、『大恐慌以後の世界』(光文社)、『通貨バトルロワイアル』(集英社)、『未来ビジネスを読む』(光文社)は韓国、中国でもベストセラーとなった。『ウォーター・マネー:石油から水へ世界覇権戦争』(光文社)は台湾、中国でも注目を集めた。
テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍中。「サンデー・スクランブル」「スーパーJチャンネル」「たけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「みのもんたの朝ズバ!」(TBS)「とくダネ!」(フジテレビ)「ミヤネ屋」(日本テレビ)など。また、ニッポン放送「テリー伊藤の乗ってけラジオ」、文化放送「竹村健一の世相」や「ラジオパンチ」にも頻繁に登場。山陰放送では毎週、月曜朝9時15分から「浜田和幸の世界情報探検隊」を放送中。
その他、国連大学ミレニアム・プロジェクト委員、エネルギー問題研究会・研究委員、日本バイオベンチャー推進協会理事兼監査役、日本戦略研究フォーラム政策提言委員、国際情勢研究会座長等を務める。
また、未来研究の第一人者として、政府機関、経済団体、地方公共団体等の長期ビジョン作りにコンサルタントとして関与している。
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