<大工を目指して>
小学校6年生のとき、父親から将来について告げられる。
「お前は大工になれ。大工は算数や社会、英語なんかは要らない。だから勉強もしなくてよい」
三男の兄は県立高校に通っていた。五男である透も当然高校に行くものだと思っていたが、大工になることを命じられた。高校にやるお金はないと告げられたのだ。黒木は特に反抗するでもなくこれを受け入れる。中学に入ると成績はどんどん下がり、クラスで中の下までいった。大工になると自分でも決めたので、気にもしなかった。中学でも学校とアルバイトの生活。部活動などもしなかった。そして卒業し、大工仕事を学ぶために無料の職業訓練校に入る。
訓練校では大工仕事の基礎を叩き込んでもらった。かんなの掛け方、のこぎりの、玄翁の使い方、釘の打ち方などを親方が教えてくれる。1年間、寮に入ってみっちりとしごかれたという。
「家の作り方の基礎を学びました。実際に現場に出て、親方の指導を受けました。私が少しでも失敗をすると差し金で殴られていましたよ」
訓練校には年上の人たちもたくさん通っていた。むしろ中学を卒業してすぐの黒木は珍しいくらいの若さだった。この年上の人たちとの出会いも黒木にとって大事なことだったという。
「年上の人と出会えたのはよかったです。訓練校には30歳以上の人もいらっしゃいました。それぞれ建築に夢を持っていたり、さまざまな経験を持っていたりして、とても刺激を受けました。大工仕事以外の社会勉強も、この交友関係で学ぶことができました」
訓練校に通いながらも寮費や交遊費のためにアルバイトをしていた。ラーメン店「千里十里(ちりとり)」で出前の配達をやっていた。このお金で時にはデートや映画鑑賞をしていた。ちなみに黒木は、女性にはモテていたらしい。郷ひろみに似た青年で面白いと評判だった。女性とは一緒にボートに乗ったり、映画を見たりするだけで十分楽しかったという。けれども、女性と一対一で会うのはまれで、主には男同士で遊び歩いていた。年上のクラスメイトたちからは色んな遊びを教えてもらったと言う。ただし、ギャンブルだけはどうしても肌に合わなかった。どうしてこんなことに時間を費やすのか、疑問にすら思ったという。今でもパチンコや競馬などのギャンブルには縁がないのだそうだ。
たった1年の訓練校生活だったが、いい出会い、学びがある充実した一年だったと黒木は振り返る。
【柳 茂嘉】
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