こうした投機目的の住宅建設ブームは内モンゴルのような内陸部にも広がり始めている。中東の放送局アルジャジーラが2009年11月に報じたオルドスの光景はその象徴と言えるだろう。町全体が高級住宅街となってはいるが、住んでいる人間が全くいない。豪華な役所は建設されたものの、あたかもゴーストタウンのような街が突然、出現しているのである。
中国では一般の投資家が資産運用を行なう場合、株を除けば不動産投資が関の山。他に選択肢の余地がない。また、私有財産の所有が認められ個人の住宅取得が始まった1990年代の半ばから住宅価格は一度も値下がりをしていない。こうした状況があるかぎり、不動産投機に多くの資金が流れ込まざるを得ないのである。
中国の消費者物価指数は2009年11月、上昇に転じた。このままで行けば2010年には3.5%に達するとみられている。インフレの恐れが顕著になり始めていることもあり、中央銀行は金利を上げるなど金融政策を通じて不動産バブルの崩壊を抑えようとする動きを見せ始めた。
翻ってみれば、2009年前半だけで中国の銀行の貸し出した住宅ローンの金額は2008年1年間のトータルの倍にまで膨らんでいたのである。ごく最近まで中国では「世界の工場」として輸出できる商品を製造することで利益を上げる人々が多くいた。輸出額ではドイツを抜き、世界1になったとはいえ、一時の勢いはなくなり、今では投機目的の不動産の購入と転売ビジネスが儲け話の主役となっているのである。
最近、中国ではマイホームを高額ローンで購入し、生活苦に陥った都市住民の姿を描いたテレビ番組「蝸居」が大きな反響を呼んでいる。中国政府国務院の予測によれば、「今後20年以内に農村部から都市部に移住する人口は4億人を超える」とのこと。言わば、ドバイのような蜃気楼都市が322も出現するに等しいわけだ。
当然、大都市圏では住宅に対する需要がこれまで以上に膨れ上がることは目に見えている。開発業者は許認可権を持つ役人との癒着に走り、マイホームの夢を追う住宅購入者の30%以上が無理を承知で月収の半分以上をローンの返済に充てているほど。異常なまでの拝金主義とローン地獄の終着点が視野に入ってきているが、誰もがトンネルの先を正視しようとしていない。暴走列車・中国が軌道を外れる可能性は高まる一方だ。
【浜田 和幸(はまだ かずゆき)略歴】
国際未来科学研究所代表。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。
ベストセラー『ヘッジファンド』(文春新書)、『快人エジソン』(日本経済新聞社)、『たかられる大国・日本』(祥伝社)をはじめ著書多数。最新刊は『ノーベル平和賞の虚構』(宝島社)。近刊には『オバマの仮面を剥ぐ』(光文社)、『食糧争奪戦争』(学研新書)、『石油の支配者』(文春新書)、『ウォーター・マネー:水資源大国・日本の逆襲』(光文社)、『国力会議:保守の底力が日本を一流にする』(祥伝社)、『北京五輪に群がる赤いハゲタカの罠』(祥伝社)、『団塊世代のアンチエイジング:平均寿命150歳時代の到来』(光文社)など。
なお、『大恐慌以後の世界』(光文社)、『通貨バトルロワイアル』(集英社)、『未来ビジネスを読む』(光文社)は韓国、中国でもベストセラーとなった。『ウォーター・マネー:石油から水へ世界覇権戦争』(光文社)は台湾、中国でも注目を集めた。
テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍中。「サンデー・スクランブル」「スーパーJチャンネル」「たけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「みのもんたの朝ズバ!」(TBS)「とくダネ!」(フジテレビ)「ミヤネ屋」(日本テレビ)など。また、ニッポン放送「テリー伊藤の乗ってけラジオ」、文化放送「竹村健一の世相」や「ラジオパンチ」にも頻繁に登場。山陰放送では毎週、月曜朝9時15分から「浜田和幸の世界情報探検隊」を放送中。
その他、国連大学ミレニアム・プロジェクト委員、エネルギー問題研究会・研究委員、日本バイオベンチャー推進協会理事兼監査役、日本戦略研究フォーラム政策提言委員、国際情勢研究会座長等を務める。
また、未来研究の第一人者として、政府機関、経済団体、地方公共団体等の長期ビジョン作りにコンサルタントとして関与している。
【最新刊】
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら