打開策というべきか、時間稼ぎというべきか、2010年5月には上海万博が開催される。いわば最悪の事態を先送りする目くらまし戦術であろう。史上最大規模に固執する中国では「より良い都市、より良い生活」をテーマに、この博覧会の成功に向けて猛烈な勢いで都市開発やインフラ整備に力を入れている。
万博会場の建設費と運営費だけで約4,000億円。そして地下鉄や道路工事などインフラ整備に投じられた資金は4兆円を超える。過去、最大の来場者は1970年の大阪万博の6,400万人であったが、今回の上海万博では1億人超えを目指すという。経済波及効果は20兆円に達するとされるが、どこまで実需を生むものか。
この世紀の万博のために立ち退きを余儀なくされた上海市民は2万世帯を超えた。彼らがより良い住宅や生活を手に入れたという話は全く聞こえてこない。過去の万博の歴史を見れば、赤字で終わったケースが圧倒的に多い。上海市の共産党委員会書記は「中央政府から財政支援を受けなくても、この大事業を成功させる」と自信を示す。その自信の裏付けとなっているのが万博会場の跡地の転売計画に他ならない。ここでも不動産バブルがより大きく膨らむ仕掛けが進行中である。
上海万博の後、地元では上海ディズニーランドの建設が控えている。「2020年までに世界最大の金融・水運センターに大変身する」と豪語する上海。その意味では不動産バブルはまだまだ膨らむ一方であろう。しかも「上海に続け」と、天津、武漢など他の主要都市も相次いで、大規模な不動産開発プロジェクトを進めている。
それどころか、首都北京の移転計画も着々と進み始めた。この計画の旗振り役である政府系ファンドのCICは2010年1月20日、香港に世界の投資家を集め、大規模な中国インフラ投資説明会を開催。
果たして、いつまでこうしたバブルが膨らみ続けるのだろうか。すべてのバブルははじける運命にある。人類史上最大のバブルと化した中国の不動産バブルが破裂した時、世界経済はかつてない地獄を見ることになるだろう。このままでは「ドバイショック」の千倍以上の激震が2012年には起こりそうだ。ブレーキの効かない爆走国家の近未来は自爆テロに近いものがある。
日本とすれば、アメリカとも中国とも安全な距離を保った付き合いを模索せねばなるまい。
【浜田 和幸(はまだ かずゆき)略歴】
国際未来科学研究所代表。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。
ベストセラー『ヘッジファンド』(文春新書)、『快人エジソン』(日本経済新聞社)、『たかられる大国・日本』(祥伝社)をはじめ著書多数。最新刊は『ノーベル平和賞の虚構』(宝島社)。近刊には『オバマの仮面を剥ぐ』(光文社)、『食糧争奪戦争』(学研新書)、『石油の支配者』(文春新書)、『ウォーター・マネー:水資源大国・日本の逆襲』(光文社)、『国力会議:保守の底力が日本を一流にする』(祥伝社)、『北京五輪に群がる赤いハゲタカの罠』(祥伝社)、『団塊世代のアンチエイジング:平均寿命150歳時代の到来』(光文社)など。
なお、『大恐慌以後の世界』(光文社)、『通貨バトルロワイアル』(集英社)、『未来ビジネスを読む』(光文社)は韓国、中国でもベストセラーとなった。『ウォーター・マネー:石油から水へ世界覇権戦争』(光文社)は台湾、中国でも注目を集めた。
テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍中。「サンデー・スクランブル」「スーパーJチャンネル」「たけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「みのもんたの朝ズバ!」(TBS)「とくダネ!」(フジテレビ)「ミヤネ屋」(日本テレビ)など。また、ニッポン放送「テリー伊藤の乗ってけラジオ」、文化放送「竹村健一の世相」や「ラジオパンチ」にも頻繁に登場。山陰放送では毎週、月曜朝9時15分から「浜田和幸の世界情報探検隊」を放送中。
その他、国連大学ミレニアム・プロジェクト委員、エネルギー問題研究会・研究委員、日本バイオベンチャー推進協会理事兼監査役、日本戦略研究フォーラム政策提言委員、国際情勢研究会座長等を務める。
また、未来研究の第一人者として、政府機関、経済団体、地方公共団体等の長期ビジョン作りにコンサルタントとして関与している。
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