<元理事vs元理事長の法廷闘争へ>
理事長利権の一つは先の賃金、残業代ピンハネのほか、管理費のキックバックがある。組合は研修・実習生1人あたり毎月2~4万円の管理費を組合員企業から徴収し、その一部を送り出し機関に渡す。
「JITCOの規定では送り出し機関に払う管理費は1人2万円ですが、それを守っている組合は少ない。受け入れ機関の日本の組合も、送り出し機関の中国公司もそれぞれ実態は人材派遣業ですから、近年は中国側送り出し機関が増えて彼らも競争。送り出す人数が増えるほど彼らも潤うために、日本の組合から受け取る管理費の一部キックバックが当たり前になってきている。それに理事長がつけ込んで私服を肥やすという図式です」(中国送り出し機関関係者)。
縫製業は家内工業的な側面が強いため、組合は中国の送り出し機関が紹介する研修生候補者を現地で面接して、受け入れの可否を判断する。雇い主の組合員が同行して直に面接する場合もあるが、そこまで余裕のある組合員は少ない。そこで組合理事長が必要に応じて渡航するケースがほとんど。そうなると、現地送り出し機関の理事長への対応は推して知るべしだ。
「飲ませ、食わせ、抱かせが当たり前。組合理事長となると、中小企業でも地域ではそれなりの名士気取りも多い。それが中国へ行くと女をあてがわれてデレデレ。カネと女のために理事長を務めるような人物がいかに多いか。まともな組合員、研修・実習生にとってはガンみたいなもの。しかし、彼らも実態を知らないからなかなか表沙汰にはならない」(同制度問題に取り組むボランティア活動家)。
そんな組合を内部告発する元職員、しかも経理担当理事という重要ポジションにあった人物が現れた。さらに組合のカネを巡り、かつてのパートナーだった元理事長との法廷闘争が始まるという異例な展開の最中にある。
内部告発したのは元理事だが、元理事を相手取って民事訴訟を起こしているのは元理事長というネジレ現象にあるが、2人が役員を務めていたのは東北地方のさる広域組合。内部告発、訴訟の発端は、昨年7月、中国・上海にほど近い南通市のホテルで起きた事件からだった。元理事と実姉、元理事長と怪しい中国人、それぞれが帯同する通訳、そして南通の警察(公安)、帰国後は日本の警察、と登場人物や舞台装置は広い。
(つづく)
恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。
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