福岡県川崎町の大ヶ原産業廃棄物最終処分場問題。1995年10月に処分場の設置が許可され、建設工事が始まる段階で初めて周辺住民が知ることとなり、建設反対運動が始まったことに端を発する。そこから、事業者を相手取って「安定型産業廃棄物埋め立て処分場の建設工事と操業の差し止めを求める訴訟」が始まった。
04年に福岡地裁の判決で住民側が勝訴したものの、事業者は直ちに控訴。高裁で争われることとなり、09年11月30日に出された判決でも住民側が勝訴した。
不適切な場所での処分場の許可が1日も早く返納され、行政の枠内の判断基準だけでこの問題を捉えるのではなく、『返納指導』を直ちに行なうことが正しい方策である。しかし県は、「事業者への許可の返納を指導することはできない」と説明。現地の大ヶ原周辺住民や川崎町民は「高裁で勝訴を勝ち取ることができたのにどうしてなのか」と福岡県の環境行政へ不信を募らせている。
この問題について、住民側代表であり、川崎町でレストランや果樹園を営んでいる(有)ラピュタファームの杉本利雄氏に話をうかがった。全3回にわたって連載する。
◇住民への十分な説明がなされていなかった
―14年間にわたって産廃問題が争われていますが、12月の定例会では「返納の指導をすることはできない」という答弁がなされました。それについてどのように思われますか。
杉本 反対運動は95年の10月から始まり、裁判自体は13年になります。裁判によって、現在は工事が停止されている状況です。本来、許可を出す権限は県が持っています。産廃場の設置許可は、国の「廃掃法」の基準に沿ったかたちで出るのですが、設置する事前の段階で住民と業者の間にトラブルがたびたび起きていますので、県独自の「紛争予防条例」が作られています。この条例をもとに、設置許可を出す段階でどういう産廃場ができるのか十分地域住民に説明し、住民と会社とで意見交換をして最終的に合意・許可が出るのです。県が定めた産廃場との関係地域は行政単位で決められており、中心から2キロの範囲に入る行政区範囲に集中する住民と会合を開いて話し合います。ところが、このレストランから直線距離にして500メートルほどの場所に産廃場が立地しているのですが、関係地域には含まれていなかったわけです。
―周辺住民の方に十分な説明がなされていなかったというわけですね。
杉本 県は、「町から行政区割地図をもらって調査を行なった」と回答していますが、業者はそのことを知らないと説明しています。そして、誰も責任を取ろうとしません。条例を定めていれば、今のようにもめる状況には陥らなかったわけです。業者と住民の間でトラブルが起きている状況となれば、産廃場設置許可を保留もしくは取りやめるべきなのです。裁判をしなくても、許可を出すのは県ですし取りやめるのも県ですから。なぜ県として「返納指導ができない」ことにこだわらなければならないのか、背景が全くわかりません。
産廃場の建設によって、県は建設業界への効果を考えているようですが、今は地方に対する支援がいろいろあるわけですから、違う支援の方法を考えていただきたいと思います。地方の活性化というのは、「環境をどれだけ大事にしていくか」だと思います。県は「産廃場ができなければ地域経済が疲弊する」と説明し、900ヘクタール弱の森をつぶして産廃場にしようとしていました。
今、経済が停滞しているなかで、本当に地域が目指さなければならないものは何か、考えていかなければならない時期だと思います。
【取材、文・構成:廣瀬 智久】
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