<警察による事情聴取>
初年で売り上げは2億6,000万円を越えた。事務員と2人でこの数字である。次々と入ってくる仕事。そして、それを成すたびに増える収入。このころのエピソードに、自動車事故をしたときのものがある。
黒木が車に乗っているときに、自動車事故に巻き込まれた。黒木は首を痛めて通院を余儀なくされる。自動車保険の担当者にその旨を連絡すると、「ゆっくり療養してください。保険がその間の補償をしますから安心してくださいね」と言われた。黒木は「本当にいいんですか。随分と多額の保険金になると思うんですけれど…」と返事をしたが、相手は大丈夫、大丈夫の一点張り。
保険金を確定するために源泉徴収表を保険会社に提出したときである。保険の担当者が血相を変えて連絡してきた。
「できるだけ早く回復してください!」
黒木に支払われる保険金が1日当たり60万円だったのである。黒木の事業は、それくらい信じられないほどの成功だったのだ。欲しいものは何でも買えた。高級車やオープンカーも買った。本当に何不自由ない生活を送った。天国にいるような気分だったという。
しかし突然、そんな気分を一気にぶち壊す事件が起こった。警察が黒木を訪ねてきたのだ。任意で事情が聞きたいという。いったい何のことだかさっぱり分からなかったが、抵抗する理由もないので、聴取に応じて警察署に行った。
生まれて初めて入る、鉄格子がはめられた取調室。何が起こったのか分からなかった。
刑事が口を開く。
「お前に詐欺の被害届が出されている」
黒木がコンサルタントとしてビルの建築を依頼された会社が、被害届けを出したというのだ。その会社は数カ月前に倒産したのだが、その原因が黒木公益事務所にあるというのである。
困った。まったく身に覚えがない。ただその会社に依頼をされてビルを3、4棟売買しただけである。飲食と不動産をやっていた会社が、『ビルの一棟売りをやってみたいが、自社でそのノウハウがないから力を貸してくれ』、という同社役員からの依頼だった。
黒木はきちんと対応し、このビルはいくらで買っていくらで売れますよ、とアドバイスし実行していった。手がけた物件はすべて思うように利益を上げたはずだが、詐欺とはどういうことか。
「この会社がつぶれたのは、お前と役員が結託して高いコンサルフィーをとっていたからだ」
【柳 茂嘉】
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら