<詐欺師と呼ばれ>
本当に困った。きちんとした契約にのっとってビルの売買をコンサルタントしただけなのに。一体、何の問題があるというのか。黒木には警察側の言い分がさっぱり理解できない。
「お前の所得を調べてみたけれど、随分と稼いでいるみたいだな。一回のコンサルタント料金で500万も600万もとっている。それを年に何回も、だ。お前はオレの年収を知っているのか。そんな能力がお前にあるのか。こんなもの詐欺に決まっている」
「お前が荒稼ぎするからこの会社は運転資金がまわらなくなって潰れてしまったんだ。お前と役員が潰したのも同然だ。責任を感じないのか」
倒産した会社は先述のとおり飲食業と不動産業を手がけていた。不動産業のほうは黒字を計上しており、加えて黒木の手がけたビル売りも利益を生んでいた。利益が生まれるから1棟が2棟になり、3棟めになったわけである。2億のビルの売買ならば、その約3%に当たる600万円をフィーとして受け取った。これは約定に定めたとおりのことで、何の約束違反もしていない。この話はこの会社の役員が持ってきたもの、というのも間違いない。黒木も役員も会社のことを思って、利益を生むために行動し、その果実を得ているだけなのだ。実際は飲食業の手を広げすぎたために運転資金がまわらなくなっての倒産だったのだが、警察官には、どうやらそれが理解できていなかったようである。よしんば倒産理由を理解できていたとしても、コンサルフィーの高さが理解できなかったのかも知れない。
警官が机を蹴る。罪を認めろと迫る。がなりたてる。青筋を立てて声の限りに叫ぶ。取調べの警察官が交代して、今度は穏やかな人が出てくる。さっきは済まんかった、あいつはすぐに熱くなってしまうんでな、どうだ、罪を認める気になったか。
手を変え品を変えて警察が黒木を「落とし」にかかる。けれども、ありもしない罪を認めることは黒木にはできなかった。たしかに自分には何の資格もない。そんな能力があるのか、と聞かれたら答えに戸惑ってしまうのも事実だ。だけれども、多くの顧客から感謝の言葉を受けてここまでやってきた自負はある。オーナーの利益を上げてきた実績もある。
黒木は断固として自説を曲げることはなかった。指紋採取も断った。任意での捜査は、およそ3カ月にも及んだ。
【柳 茂嘉】
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