<民事訴訟と刑事告発 前理事長B氏の解任>
B氏は、Aさんの荷物から何を得ようとしたのか。複雑な背景というのはそれだ。Aさんによれば、組合を辞める直前、B氏の指示で組合口座から退職金1,000万円とB氏の借入金など合わせて1,350万円を引き出し、B氏に渡したという。だが、退職金を受け取ることなく中国旅行に出かけたところ、事件になったというもの。しかし、その後、B氏からは理事長名でAさんに1,350万円の返還を求める民事訴訟が起こされた。
訴訟は東京地裁で始まったばかりだが、Aさんはさまざまな証拠資料で反論する構え。ただ、現金の受け渡しは第3者がいないAさんとB氏の2人だけの間で行なわれており、「渡した」「受け取っていない」という論争になるため裁判所の判断を待つしかない。
件の組合は、以前から何かと問題の多い組合の一つ。理事長と事務局が一体となり、理事長のワンマン体制が確立していた。そこにAさんと理事長の間に、先のような金銭問題が浮上。「組合は私がおカネを横領して行方不明、と組合員に言っていることが分かり、組合がやってきた規則違反や違法性をすべて告発することにしました」(Aさん)。
組合事務局は、「Aさんについては、民事訴訟と別に所轄署に刑事告発しています」と言うが、組合本部のある所轄署で確認すると「相談は受けたが受理はしていない」という。組合執行部内のゴタゴタはさすがに組合員の不審を呼んだらしく、ワンマン体制を築いていたB理事長も昨年末の臨時理事会で解任された。
組合のカネの行方と使途はいずれ裁判で決着するとしても、B氏は前理事長としての責任は免れまい。病気名目で実姉を誘い出し、Aさんを中国まで追いかけていくこと自体、尋常ではない。よほど不都合な何かをAさんに握られているとの思いがあったのか。あるいはAさんが「持ち逃げした」という現金または預金通帳があると思ったのか。いずれにしろ事件は日中双方の警察にも届けられている。さらにAさんは前理事長下で行なわれてきた研修・実習生の残業や就労時間のデタラメさ、監督官庁への虚偽報告などその運営実態を昨年秋から年末までに、東京入国管理局、仙台の東北経産局などそれぞれの担当省庁へ通報、告発した。
「東京入管からまだ資料が届いていないので内容についてはまだ把握していない」(仙台入菅)、「元理事から通報があったことは認識している。どう対応しているかはまだ申し上げられる段階にはない」(東北経産局)というが、各省庁の対応に注視したい。
(了)
恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。
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