<暴力団に脅されても屈せず>
ある案件のことである。黒木がコンサルタントとして受注した物件の、およそ20m離れたところに暴力団の事務所があった。例にたがわず、意気揚々と埒外の輩がやってきた。
「ここにビルを建てられると日当たりが悪くなってしまう。いったい、どうしてくれるのだ」
黒木はすぐに電話の受話器をとり警察に連絡を入れる。
「暴力団から脅されています」
警察は、とりあえず様子を見に来た。脅している事実はあるのか、聞き込みをする。暴力団は、当然そんなことはしていないと答える。当時はまだ暴対法が施行されていなかったことから、民事不介入を理由に警察も通りいっぺんの対応しかできなかったのだ。お咎めなしで警察は去ってしまった。するとすぐに工事現場へ暴力団員が駆けてきた。
「誰が警察に電話したのだ」
工事責任者は首を横に振る。他の作業員も周囲を見わたす。黒木に視線が集まった。
「ちょっと顔を貸してくれないか」
暴力団の事務所に呼ばれた黒木は狭い室内で刺青をちらつかせた構成員にこれでもかと脅されたと言う。
「よくそんなことができるな」
「こっちが何か悪いことをしたというのか」「お前さんでは話にならない。オーナーを出せ」
黒木は屈することなく言い切った。
「私がオーナーです。私が警察にも連絡しました。どうかいやがらせのようなことはしないでください」
話しはまとまることなく、平行線をたどる。根負けをしたのか、事務所から出て行くことを許された。玄関を出ると黒木の目の前に植木鉢が落ちてきた。偶然ではない。いやがらせがおさまることはなかった。
意を決して黒木は再び暴力団員と話しをする場を設けた。黒木はこれまでの苦労話や世間話をした。どうやら暴力団員は黒木をどこかのお坊ちゃんだと思っていたようで、苦労人と知ると妙な親近感を持ってくれたらしい。お前も大変だったんだな、と。
黒木の誠心誠意が通じたのである。それ以来、その案件では嫌がらせを受けることはなくなったという。
「人と人ですから、正直に話せば分かってくれましたよ」
【柳 茂嘉】
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