裁判事件に発展
「このままでは約46億円もの請負代金が不良債権化してしまう。アーム・レポが倒産する前にできるだけ早く代金を回収したい」―焦った大成建設は、アーム・レポの田中氏に再三再四支払いを督促したであろう。しかし、出口を閉ざされ天神プレイスを抱えることになったアーム・レポの経営状況は悪化しており、このとき多くの関係者が倒産という最悪の事態を想定していた。
08年4月18日、大成建設は請負代金を担保するため、天神プレイスに46億5,057万5,650円で抵当権を設定(同5月9日登記)した。なお、借地権については06年7月19日付で質権設定を受けた(同12月14日登記)。
当初予定していたSCJとの売買が決裂し、請負代金債権の回収に奔走することになった大成建設。天神プレイスのテナント入居状況が思わしくなく、ますます経営が悪化していったアーム・レポ。田中氏はSCJと並行して天神プレイスの売却先を探したものの、リーマンショック以降の不動産市況の冷え込みも相まって簡単には見つからなかった。
同じ頃、福岡の名だたるデベロッパーの倒産が相次ぎ、「いよいよ次はアーム・レポか」とそこかしこで囁かれていた。そんな折、同社ならびに福岡の不動産業界にとって久々の朗報が舞い込んできた。「やずやホールディングス、天神プレイスを買収」―09年9月30日、再起不能と思われていたアーム・レポが息を吹き返した瞬間だった。
田中氏は当時の取材に対し、「やずやの矢頭会長ご自身の最後のライフワークとして、この物件を買いたい、ここで街づくりをしたいという想いが双方で一致したことが今回の売却につながった。大成建設さんのような大企業と組ませていただいたこと、そして認めていただいたという点がとても大きい」と答えていた。
これで円満解決かと思いきや、同年12月にひとつの民事訴訟が提起された。原告はアークエステート(福岡市、代表:山本昭子)、被告は大成建設とアーム・レポの2社、事件名は報酬金等請求である。端的に言えば、アークエステートがやずやHDとの仲を取り持ったのであり、それに対する報酬が支払われてないのはおかしいということである。これこそが、天神プレイス売却にまつわる裏話である。
以下、双方の視点からそれぞれこの裁判について見てみよう。
【大根田 康介】
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