大成建設とアーム・レポの視点
(1)原告に対する反論
原告の主張に対して、被告は次のように反論している。
大成建設がアークエステートとアーム・レポの間に媒介契約があるのを認識したのは09年8月20日のことだ。やず企画が天神プレイスを買い取りたいと申し入れたことは、アーム・レポからの報告で認識していた。アーム・レポに対して大成建設は約46億円の請負代金債権を有しており、担保権設定も受けていた。
ここで重要なのは、「売買契約が成立した場合、売買代金からいくら請負代金債権の支払いに充当されるのか」ということ。ところが、やず企画が当初アーム・レポに対して提示していた希望価格は借地権の保証金込みで約42億円。経営状況がひっ迫していたアーム・レポに必要な資金などが売買代金から控除されることを考えれば、到底同意できるものではなかった。
(a)大成建設はアーム・レポとやず企画から担保権解除の対価として具体的な金額の提示を受けたことはなく、両者の協議はその段階にさえ進まなかった。したがって当社が44億円で同意した事実はない。そもそも、09年8月5日時点でアーム・レポが代物弁済として天神プレイスを大成建設に譲渡することについて合意し、同18日にはこれを前提としてやずやHDから大成建設に対して天神プレイスの買い取り希望の申し入れがなされていた。
したがって、同8月の時点でアーム・レポとやず企画の間の売買契約について大成建設とやず企画が合意するような状況にはなく、担保権解除にも同意していなかった。ゆえに、アーム・レポとやずやHDとの間に売買契約が締結される見込みはなく、原告であるアークエステートを排除する意味がない。
(2)原告は「代理人」
アークエステートはやずやHDの「代理人」として天神プレイスの譲渡に関与していたため、原告の言うような排除の意志を明示も黙示もしていない。さらに、(b)大成建設がアーム・レポとアークエステートの間で媒介契約があると認識したのは09年8月20日のこと。つまり、大成建設とアーム・レポの間で代物弁済の合意がされ、やずやHDから大成建設に対して買い受け希望がなされた後のことだ。したがって、時期的に大成建設はアークエステートを排除する意思を持ちようがなかった。
大成建設は、やずやHDから正式な買い受け申し入れを受ける前に、請負代金債権回収の目的でアーム・レポとの間で代物弁済の主要な条件について合意していた。仮に、やずやHDから申し入れがなかった場合には自社保有での運用まで想定しており、代物弁済はやずやHDの購入を条件としたものではなかった。天神プレイスをやずやHDに売却するのが決まったことを伝えたのは8月19日になってからのこと。アーム・レポは大成建設からやずやHDへの譲渡合意の成立過程に関与していない。
以上のように、大成建設、アーム・レポ、やずやHDすべてにおいてアークエステートを排除する必要はなく、当事者全員に意図もなく、そのような事実もない。
【大根田 康介】
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