このところ中洲大通で若者のストリートパフォーマーが増えてきたように思える。ギターを弾いて歌う手合いだけではない。秀でた芸を披露する本格的なパフォーマーが目立つのだ。
中洲大通を歩いていると、耳にしたことのあるメロディーが聞こえてきた。葉加瀬太郎の「情熱大陸」である。音源をたどれば、3、4人の聴衆に囲まれて、ひとりの青年がバイオリンを弾いている。近づいて様子を見ていると、どうやら客のリクエストに応じて、演歌、歌謡曲、J-POP、アニメソングなど幅広い楽曲を演奏してくれるらしい。話を聞いてみた。
バイオリン弾きの青年は25歳。4ヶ月前から中洲に立つようになったという。「以前は天神でやっていたんですけど、付近の住民から苦情が来まして―。それで中洲へ移ってきたんですが、ここは気がねせずに演奏できますね」。
夜遅くまで賑わっている中洲だけに、演奏系のパフォーマーには最高の環境なのだろう。だが、中洲がパフォーマーを集めている理由はそれだけではないようだ。環境だけでなく収入の方も格別だとその青年は言う。
「正直言うと天神の2倍です。(投げ銭収入が)1月20万を超えています。天神に比べて年齢層が高いということもありますが、世代を問わずみなさん気前がいいんですよ」。
ごく稀に1万円札を置いていく人もいるという。すぐ近くで手品をやっていた若者には、1度だけ中洲で2万円の投げ銭をもらったことがあった。さすがにその時は、お礼にタネを明かして、手品の手ほどきもして上げたとか。
そんな高額チップは例外だが、飲み客、キャバクラ嬢、ホストなど、芸を見たら、みな気前よく投げ銭を出す。いやはや、中洲っ子は気前が良い。
投げ銭は、単に収入という意味合いだけではない。パフォーマーにとっては、自分の芸が認められた証でもある。収入が増えたことを青年は誇らしげに話していた。現在のレパートリーは100曲ほど。ゆくゆくは1万曲をマスターして一流のプロになる。それが青年の野望だ。
小生の世代だと、ストリートからビッグネームになった例では、横浜伊勢佐木町モールの『ゆず』が思い浮かぶ。彼らが最後に路上で演奏した日、約7,500人の聴衆が集まったという。多くのパフォーマーが集まってくるようになれば、彼らのようなサクセスストーリーが生まれるかもしれない。人が集まれば町も元気になる。中洲のひとつの可能性に気づいた。
(つづく)
長丘 萬月(ながおか まんげつ)
1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。
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