そんな背景からラオスは世界銀行やアジア開発銀行に協力を求め、東南アジアにおける原子力発電の中心地たらんとする国家戦略に着手した模様だ。地の利を生かし、タイやベトナムなど経済的により進んだ国々に対し国境を越えて電力供給を図る構えである。メコン川流域の環境問題や上流におけるダム建設などが水力発電への過度の依存を見直す動きを加速させている。そうした状況も踏まえ、ラオスでは中国あるいはミャンマーといった国々との関係維持を睨みながら、新たなエネルギー戦略に活路を見出そうとしているに違いない。
そのミャンマーも自ら実験用原子炉の建設に乗り出そうと腹をくくったようで、すでにロシアに技術者を派遣し必要な技術訓練を受けていると言われる。2001年に国際原子力委員会がミャンマーの実情を視察したが、法的な枠組みや安全技術に関してはまだ十分な体制が整っていないとの厳しい評価が下された。とは言え、ミャンマー政府は将来的なエネルギーの自給体制と安全保障の確保を目指し原子力発電に大きな望みを託しているようだ。
また、ラオスが供給先として想定しているタイやベトナムも自らが原子力発電事業の中心地になりたいとの国家的ビジョンを描いているようだ。両国とも堅調な経済成長をバックに電力需要を改善する目的で原子力発電に極めて熱心な姿勢を見せている。
かつて、タイとラオスは戦争状態に近い程の緊張関係に陥ったこともある。そうした両国が今後は原子力の平和利用や原子力を通じた経済技術協力を深めることで、これまでにない安定した外交関係を模索しているように思われる。現在の長期発電計画の下では1000メガワットの原子力発電所は4基建設される予定で、2020年から21年には電力供給が始まる見通しである。タイの政府によれば、原子力発電は同国の天然ガス事情からも今後3年ないし4年以内に確実に成長させなければいけない分野と位置付けられている。
【浜田 和幸(はまだ かずゆき)略歴】
国際未来科学研究所代表。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。
ベストセラー『ヘッジファンド』(文春新書)、『快人エジソン』(日本経済新聞社)、『たかられる大国・日本』(祥伝社)をはじめ著書多数。最新刊は『ノーベル平和賞の虚構』(宝島社)。近刊には『オバマの仮面を剥ぐ』(光文社)、『食糧争奪戦争』(学研新書)、『石油の支配者』(文春新書)、『ウォーター・マネー:水資源大国・日本の逆襲』(光文社)、『国力会議:保守の底力が日本を一流にする』(祥伝社)、『北京五輪に群がる赤いハゲタカの罠』(祥伝社)、『団塊世代のアンチエイジング:平均寿命150歳時代の到来』(光文社)など。
なお、『大恐慌以後の世界』(光文社)、『通貨バトルロワイアル』(集英社)、『未来ビジネスを読む』(光文社)は韓国、中国でもベストセラーとなった。『ウォーター・マネー:石油から水へ世界覇権戦争』(光文社)は台湾、中国でも注目を集めた。
テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍中。「サンデー・スクランブル」「スーパーJチャンネル」「たけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「みのもんたの朝ズバ!」(TBS)「とくダネ!」(フジテレビ)「ミヤネ屋」(日本テレビ)など。また、ニッポン放送「テリー伊藤の乗ってけラジオ」、文化放送「竹村健一の世相」や「ラジオパンチ」にも頻繁に登場。山陰放送では毎週、月曜朝9時15分から「浜田和幸の世界情報探検隊」を放送中。
その他、国連大学ミレニアム・プロジェクト委員、エネルギー問題研究会・研究委員、日本バイオベンチャー推進協会理事兼監査役、日本戦略研究フォーラム政策提言委員、国際情勢研究会座長等を務める。
また、未来研究の第一人者として、政府機関、経済団体、地方公共団体等の長期ビジョン作りにコンサルタントとして関与している。
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