前回紹介したように外国人技術・実習制度を利用する企業は多いが、それらを現場で仕切っているのは全国各地の事業協同組合。その組合も組合員企業も千差万別。問題組合や企業が少なくないが、実態が明らかになることは希。事件になってはじめてその一端が知られる程度。そんな組合の内情を元理事が告発するという異例のケースが起きている。
<ホテルでの盗難事件>
背景には複雑な事情があるが、発端は昨年7月に中国で起きた事件からだ。
東北のさる広域組合の経理担当理事だったA女史は、昨年7月に辞表を書き、東京在住の実姉と友人で中国の北京・大連旅行に出かけた。4日目に実姉が帰国。その2日後には友人も帰国し、Aさんはひとり上海経由で南通市に向かった。組合時代に親しくなり、帰国した中国人元実習生の招きに応じたもの。上海の空港から南通へは、親しくしていた中国人通訳W女史の案内で、予約していた市内のホテルに着いた。
するとロビーに待機していたのが、姉と中国人通訳C女史、それに研修生を送り出す地元の機関(公司)の中国人夫婦。「あなた、どうなっているの?」という姉の問いかけに、「遅いし疲れているので、翌日ゆっくり話そうということで、私だけWさんにチェックインしてもらって部屋に入り、ぐっすり寝込んでいました」(Aさん)。
彼女が異変を知ったのは、翌午前中。「ホテルに預けていた荷物が全部盗まれた。今、南通の警察にいるからすぐ来て」という姉からのあわただしい電話に起こされたからだ。事態がわからないままに南通市警察(公安)へ出向くと、そこには姉とW通訳。姉の話では、チェックアウトのために預けていたはずの荷物を受け取ろうとすると、フロントは預かっていないという。同宿する妹の部屋扱いで預けられていると思ったところ、Aさんの部屋扱いでも何も預かっていないという。
機転の利く姉は、すぐW通訳とともに警察へ直行。そこから、寝ている妹を叩き起こしたというもの。ホテルで消えたのは姉のケース1個、A女史のケース、バッグ、パソコンが各1個ずつ。日本人姉妹2人と通訳、それぞれが何が何だかわからないまま駆け込まれて、南通市警察もさぞや大変だったろうが、「ともかく盗難届けを受理してくれました」(Aさんの実姉)。
<暗躍する前理事長B氏>
そこで落ち着いた姉妹、W女史それぞれの話をつき合わせてわかったのは、マンガか三流ドラマの世界のような話だった。
一足先に帰国した姉に、「妹さんが中国で病気になったらしい」という組合事務局からの連絡が入った。驚いた姉は、「私も一緒に行く」という当時の理事長B氏ともども上海経由で南通市入りした。日本から南通入りする間、姉はB氏からAさんが組合のカネを持ち出したと伝えられて仰天。ホテルでA女史の到着を待っていたが、合流したときにはなぜかB氏はその場から消えていたという。その後、W通訳の車に積んでいたAさんの荷物3個が、突然現れた怪しい中国人数人に奪われそうになるが、姉とW通訳は何とか阻止。姉妹の荷物はC通訳の手でフロントに預けられた。しかし、そのときC通訳が意図したか否かともかく、荷物をB氏の部屋扱いとしたため、姉妹は荷物を受け取れなくなったというもの。
持ち去ったのがB氏であることは、後日、実姉宅に組合からAさんの荷物ともどもすべて送り返されてきたことで明白。B氏がわざわざ中国までAさんを追いかけ、彼女の荷物に執着したのはなぜか。なかには何が入っていたのか。「衣類以外はプライベートな写真などで、もちろん現金や預金通帳などは入っていません。パソコンには多少、組合関係の記録もありましたが」(Aさん)。
送り返された荷物を、姉はいったん受け取り拒否して宅配会社に預かってもらい、Aさんの帰国を待って警視庁管内の所轄署に被害届けを出すとともに、所轄署立ち会いの下で開封した。 「なくなっていたのは写真数枚。パソコンのデータがコピーされているかどうかは、分かりません」(Aさん)。
(つづく)
恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。
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